1,280kgを、640と640に分けた。
整備書のTechnical Dataは、重量をkgと、英米で使うポンド(lb)の二段で書いている。944ターボの欄はこうだ——Curb weight 1280/2822、front 640/1411、rear 640/1411。640kgをポンドに直すと1,411lbで、その2倍の2,822lbが、そのまま車両重量の欄に収まる。
比率に直せば50:50、それも丸めた結果ではなく割り切れた数字だ。ところが同じ欄の括弧内には別仕様の値が併記されていて、総重量1,315kg、前660kg、後655kg。こちらは50.19:49.81と端数が出て、前が5kg重い。35kgの差が、前に20kg、後ろに15kgという形で分かれているので、追加装備は必ずしも均等には効かないというわけだ。
DIN 70020に基づく車両重量は、走行に必要な油脂類を満たし、燃料を規定量(一般に90%)入れ、運転者も荷物も含まない状態を指す。つまりこの数字は、クルマが持っている性質というより、測り方の取り決めのほうに属している。944ターボの80Lタンクなら90%でおよそ53kg、満タンなら約59kg。その6kgが後軸寄りに増えるので、給油した瞬間に640/640は少し動く。運転者が乗ればさらに動くから、この数字が成り立っているのは、誰も乗っていない、荷物も積んでいない、その一瞬だけということになる。
そして面白いのは、この実数が当時の広告には出てこないことだ。1986年の944ターボ公式カタログは、配分について "well balanced fore and aft weight distribution" という言い方をしていたと伝えられる。数字ではなく、言葉で説明したわけだが、エンジンを前軸側に、ギアボックスとデファレンシャル、燃料タンク、スペアタイヤを後輪側に置くトランスアクスル構成として、その配置を示すことで読者を納得させる書き方だった。
現在のポルシェ公式は、また違う書き方をする。クラシックのモデルページで944は "near 50/50 weight distribution"、944ターボは "almost ideal weight distribution of 50:50"。Newsroomのトランスアクスル記事に至っては "ideally a ratio of 50:50" と、一般論としての理想値の言い方に変わる。当時の技術資料は実数、当時の広告は言葉、そして現在の公式は概数であって、同じクルマの同じ性質が、資料の種類によって三つの精度で書き分けられてきた。
整備書にはもう一組、見落とされやすい数字がある。最大許容前軸重730kg、最大許容後軸重920kg。空車640/640からの余裕は前が+90kg、後ろが+280kgだから、後ろのほうが3倍以上広い。人と荷物が乗れば荷重は後ろへ寄るので、許容値の非対称は、その向きと揃うことになる。しかも最大総重量は1,600kgで、730+920=1,650kgより50kg少ない。前後の上限を同時に使い切ることはできず、どちらか一方に寄せれば、もう一方には余りが残る。
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ギアボックスを後ろに置いた。
944ターボは前置きエンジンの後輪駆動で、911のRRとは正反対の構成になる。ただし普通のFRと決定的に違うのは、5速MTがエンジンの後ろではなくリアアクスル上に置かれていることで、これがトランスアクスルと呼ばれる形式にあたる。エンジンとギアボックスはトルクチューブと呼ぶ筒で剛結され、内部を通る細いシャフトがクランクの回転を後方へ運ぶ。この方式は1976年の924から1995年の968まで、19年にわたって一貫して使われた。
後ろへ移したのはギアボックスだけではなく、デファレンシャルはギアボックスと同じハウジングに収まり、80Lの燃料タンクとスペアタイヤも後輪側に置かれた。重量物の置き場所として、前にはエンジンとラジエター、ブレーキ、リトラクタブルヘッドライトの格納機構が残り、後ろにはミッション、デフ、燃料、タイヤが集まる。
ここで誤解されやすいのが、後ろに錘を積んだわけではないという点だ。重りで釣り合わせたのではなく、置き場所を変えることで、総重量を増やさずに軸重をそろえている。ちなみに1,280kgという数字は、自然吸気944として記録されている1,180kgより100kg重い。過給機が付き、タイヤが太くなり、駆動系も強められているのだから、増えること自体に不思議はない。もっとも、この二つの数字は出どころが違うので、100kgをそのまま装備差として読むことはできない。
トランスアクスル時代の造形に関わったハルム・ラガーイは、リアオーバーハングの長さがアクスル後方の変速機を収めるために必要だったと後年語っている(924と928の意匠を統括したのは主任デザイナーのアナトール・ラピーヌで、ラガーイはトランスアクスル世代の造形に関わった一人にあたる)。あの尻の長さは意匠ではなく、箱を入れるための寸法だったわけで、造形の理由が機構の側にあるという点では、張り出したフェンダーも同じ読み方ができる。
制動系は前後ともベンチレーテッドディスクで、キャリパーは4ピストン。後軸の許容が920kgまであるのだから、乗員と荷物を積んだ状態では後輪がかなりの荷重を負担することになり、その状態でも止まる前提の容量が要る。空車640/640の均衡は、走り出した瞬間から動きはじめるのだ。
924から944へ、何を変えたか。
1976年の924は、1,984ccの直4で125PS、車両重量は1,080kg前後とされる。ホイールベースは2,400mmで、944ターボもこの数字を動かさなかった。ボディ寸法のほうは世代ごとに変わり、924の全長4,200mm・全幅1,685mmに対して944は4,318mm・1,735mmへ広がったが、ホイールベース2,400mmとトランスアクスルという骨格だけは、924から944ターボまで手が入っていない。つまりトランスアクスルという構成そのものは924の時点で出来上がっていて、944ターボはそれをそのまま引き継いだことになる。
出力の階段はこうなる——924が125PS、1979年の924ターボが170PS、1981年の924カレラGTが210PS。944ターボの220PSは突然現れた数字ではなく、924系がすでに210PSまで来ていた、その延長線上に置かれた数字だった。ただし、944は1982年(Porsche Newsroomは1981年と書いており、公式内でも1年ずれる)にポルシェ自製の2.5L直4を積み、前後フェンダーを膨らませ、924とは別のクルマとして立ち上がった。
944ターボで外観上いちばん変わったのは、フロントスポイラー一体のノーズである。自然吸気944の空気抵抗係数Cd 0.35に対してターボは0.33で、0.02という差は数字の見た目ほど小さくない。この世代でフロント周りの造形が変わり、リア下部にはアンダーボディ整流パネルが入った。全幅1,735mm、全高1,275mm、そして944の全長としてポルシェが挙げているのは4,318mmである。ハイソカーとデートカーが並んでいた当時の日本の街で、この低さは十分に異質だった。
2.5L 直4で220PS。
排気量は2,479cc。944ターボがこの排気量で220PSに届いたのは、過給によるものである。ボア100.0mm×ストローク78.9mm、ボア/ストローク比1.27のショートストロークで、内径がストロークを約27%上回る寸法は、高い回転数と大きなバルブ面積を取りにいった形にあたる。圧縮比は8.0:1。自然吸気944の10.6:1に対して大幅に下げているのは、過給時のノッキングを避けるためで、ここは教科書どおりの判断にあたる。
| 全長 | 4,318mm | |
|---|---|---|
| 全幅 | 1,735mm | |
| 全高 | 1,275mm | ライト格納時 |
| ホイールベース | 2,400mm | 924と共通 |
| DIN車両重量 | 1,280kg | per DIN 70020 |
| 前軸重 | 640kg | |
| 後軸重 | 640kg | |
| 最大許容前軸重 | 730kg | |
| 最大許容後軸重 | 920kg | |
| 最大総重量 | 1,600kg | |
| 積載可能重量 | 320kg | 1600−1280 |
| 総排気量 | 2,479cc | 直列4気筒 |
| 内径(ボア) | 100mm | |
| 行程(ストローク) | 78.9mm | |
| ボア/ストローク比 | 1.27 | 算出値 |
| 圧縮比 | 8:1 | |
| 最高出力 | 220PS | 162kW |
| 最高出力発生回転数 | 5,800rpm | |
| 最大トルク | 330Nm | |
| 最大トルク発生回転数 | 3,500rpm | |
| リッター出力 | 88.7PS/L | 算出値 |
| パワーウェイトレシオ | 5.82kg/PS | 算出値 |
| バランサーシャフト | 2本 | クランクの2倍速で逆回転 |
| 変速機 段数 | 5速MT | トランスアクスル |
| 空気抵抗係数 Cd | 0.33 | |
| 最高速度 | 245km/h | |
| 0-100km/h加速 | 6.3秒 | |
| 燃料タンク容量 | 80L | 後軸側 |
| 燃費(欧州複合) | 9.8L/100km | 約10.2km/L相当 |
タービンは KKK K26で、燃料噴射はボッシュ Motronic のDME、ノック制御は電子が受け持つ。結果として220PS/5,800rpm、330Nm/3,500rpm——162kW、英馬力なら217hpにあたる。ちなみに現在のporsche.com英語版の944ターボのページは223PSとしており、同じポルシェ公式の中で220と223が併存していて、三層構造は出力の表記にまで及ぶ。
リッター出力は88.7PS/L(220÷2.479の算出値)で、1980年代半ばの量産4気筒としては高い部類に入る。DIN車両重量1,280kgを220PSで割ったパワーウェイトレシオは5.82kg/PSで、0-100km/h加速は6.3秒、最高速度245km/hが欧州仕様の公称値になっている。
そして、この2.5Lには4気筒特有の問題がついてまわる。大排気量の直4は二次振動が大きく、そのままでは高級車として通らない。944はバランサーシャフトを2本、クランクの2倍速で回し、シリンダーの軸に沿って出る上下方向の力を打ち消した。同じ仕組みを、三菱自動車は「サイレントシャフト」と呼んでいた。三菱の公式沿革には、1981年12月にポルシェへこの技術を提供したという行があり、944が世に出たのとほぼ同じころにあたるが、ポルシェの2本がその供与によるものかどうかまでは、公開資料からは決められない。ともあれ、振動を消すための鉄の棒が2本、エンジンの中で常に倍速で回り続けていて、その質量も当然、640kgの前軸側に数えられる。
社内型式は951で、944の系譜の中でターボだけがこの番号を持ち、いまも旧車の世界では「951」で通じる。導入は1985年8月の欧州、10月の北米、1986年モデルとしてだった。
ガラスの尻尾と、911の椅子。
944は、最初から944の顔をしていたわけではなく、内装がまさにそうだった。1985年1月より前の944は、924の内装をそのまま使っていた。ポルシェ自身の変更履歴に "From January 1985: separate interior with seats from the 911 (previously the interior of the 924)" とある。ダッシュボードも、スイッチの並びも、座るところも、格下のモデルと同じだったということになる。
944ターボの生産が始まるのは、その後になる。つまり951は、944が924の内装を脱いだ後に出てきたクルマなので、最初から専用の室内と911のシートを持っていて、エンジンも924から引き継いだものではなく自製だった。「924の上級版」という説明が、ここでようやく実態と合わなくなる。
シートが911のものだというのは、重さの話でもある。運転席と助手席は前輪と後輪のあいだにあるので、そこに何を置くかで640/640は動くのだが、ポルシェはスポーツシートをオプションに用意していて、標準より重いものを、運転席だけ、あるいは両側に入れることができた。どちらを選んだかは、いま走っている個体ごとに違う。
外に目を移すと、ポルシェが944ターボの項に並べている記述はこうなる。リトラクタブルヘッドライトに、ボディの形へ溶け込ませたバンパー。ウインカーの下にフォグランプとハイビームを収めたフロントまわり。ボディ同色のフロントスポイラーに、膨らんだホイールアーチ、黒いサイドシルの張り出しが続く。944を924と別のクルマに見せているのは、"significantly wider, slightly angular wings"——かなり幅広で、やや角ばったフェンダーだという。
そしてテールゲートは、ガラスでできていた——"Glass tailgate with Black PU rear spoiler"。リアウインドウがそのまま持ち上がって後輪の上の荷室が開くので、この構造こそが944を「実用になるポルシェ」にした部分でもある。荷物を積んで出かけられるスポーツカー。944を選ぶ理由として、速さと同じくらいこれを挙げる持ち主がいる。
面白いのは、1991年のターボ カブリオレになると、この蓋の素材が変わることだ。"Rear lid made from sheet steel"——鋼板である。屋根が布になり、後ろの蓋はガラスをやめた。開き方が変わり、素材が変わり、そして重さの乗り方まで変わるのだから、同じ951の中でも、後ろ半分の作りは一通りではない。
Mコードで、別の車になる。
944ターボには、ファクトリーオプションを示すMコードが付いていて、車体に貼られたステッカーに三桁の番号が並ぶ。ここで重要なのは、コードが単なる装備リストではなく、その個体の重量配分を変えた記録でもあるという点にある。
ポルシェ M030 は "Sport-type chassis "Koni" with vertical adjustment"、M031 は ""Fichtel + Sachs" sports chassis without vertical adjustment" と書き分けられている。つまりスポーツシャシーは一種類ではなく、ダンパーのメーカーと車高調整機構の有無で枝分かれしていた。中古車の販売票にある「スポーツサスペンション付き」という一行では、KoniなのかFichtel + Sachsなのか、車高が調整できるのかどうかが分からない。
| M030 Koni 車高調整式スポーツシャシー | 30コード番号 | ターボSで標準 |
|---|---|---|
| M031 Fichtel + Sachs 調整なしスポーツシャシー | 31コード番号 | |
| M220 40%ロッキングLSD(後軸側) | 220コード番号 | ターボSで標準 |
| M383 スポーツシート(運転席側) | 383コード番号 | |
| M387 スポーツシート(助手席側) | 387コード番号 | |
| M573 エアコン(コンプレッサーは前軸側) | 573コード番号 | |
| M593 ボッシュ ABS | 593コード番号 | ターボSで標準 |
| M650 脱着式ルーフ | 650コード番号 | |
ポルシェ M593 は "Anti-lock brake system (Bosch)"、つまりABSで、これもMコードとして番号が振られていた。ポルシェ M220は40%ロッキングのリミテッドスリップデフだから、これは後軸側、つまり640kgのほうに足す装備になる。座席まわりではポルシェ M383がスポーツシート(運転席側)、M387が助手席側。ポルシェ M650は脱着式ルーフで、M573のエアコンはコンプレッサーがエンジンルーム、すなわち前軸側に載る。
並べてみると、Mコードは640/640の両側に荷物を足していく行為だったことがわかる。前に足すもの、後ろに足すもの、屋根そのものを外すもの。どれを選ぶかで、その一台の前と後ろは別々に動く。注文書の一行が、そのまま軸重の一行になる。
Mコードのステッカーが読める個体を前にしたとき、そこに書かれているのは装備の履歴だけではなく、その一台がどこまで640/640から離れたかの目録でもある。
ターボSと、1990年。
1988年、944ターボSが出た。250PS/184kW、最大トルク350Nm。標準ターボの220PS/330Nmに対して+30PS、+20Nmで、0-100km/hは6.3秒から5.9秒へ0.4秒、最高速度は245km/hから260km/hへ15km/h伸びた。排気量は2,479ccのまま変わっておらず、タービンは標準ターボのK26からKKK K26-8へ型式が改まった。
ターボSで注目すべきは出力よりも装備表のほうで、1988年のターボSでは、標準ターボでオプションだったシャシーまわりがはじめから組まれていたと伝えられている。オプションだったものが、上級グレードで標準に格上げされたという順序になる。
ブレーキはポルシェ 928 S4系のフロント制動系を採用し、ホイールは前7J×16/後9J×16と、リムで2J違う。必要な接地面が前後で同じではない、ということになるのだろう。空車で640/640だったクルマも、加速時には後ろへ、制動時には前へ荷重を移すのだから、空車の均衡と走行中の荷重移動は、別の話として見るしかない。
そして、この装備の格上げはターボS一台では終わらない。ポルシェは、モデルイヤー1989の944ターボにターボSのエンジンを積んだ、と書いている。1988年に単年の特別仕様として出た250PSが、翌年には普通の944ターボの中身になったわけだ。翌1990年に加わったのは、黒い弓形のリアウイングだった。
オプションが標準になっていく順序は、そのまま重量が増えていく順序でもある。ABSのハイドロリックユニット、LSDのプレート、スポーツシート。1,280kgという数字はあくまで1986年型の値であって、年式が進むほど遠ざかっていく。
S2は、過給に頼らなかった。
1988年、ポルシェ 944 S2 が登場する。2,990cc、155kW/211PS。2.5Lから0.5L拡大した2,990ccは量産直4としては大きい部類で、バランサーシャフトの必要性は、排気量が増えたぶんむしろ高まったことになる。
ターボの220PSに対して211PSで、差は9PSしかなく、数字の上ではほぼ互角に見えるのだが、性格はまったく違う。ターボの最大トルクは330Nm/3,500rpm、S2は280Nm/4,000rpm——50Nm少ないトルクを、500rpm高い回転で出すという組み合わせになる。街中で右足を踏み込んだときの押し出され方が、この二つの数字の差にそのまま出る。リッター出力で見ればターボが88.7PS/L、S2が70.6PS/Lと、過給の効率がそのまま数字に出る。
その前段には1987年の944 S があって、ターボと同じ2,479ccを16バルブ化して190PS。自然吸気で出力を稼ぐ道も、ポルシェは並行して試していたことになる。163PS(1982年の初期型2.5L 8バルブ、欧州仕様)から190PS、そして211PSへと、過給を使わない側の階段も着実に上っていった。ちなみに163という数字は総生産台数163,302台とも重なるが、こちらは偶然である。
640/640という数字はターボの値であって、S2の軸重は別にある。2,990ccで211PS、最大トルクは280Nm/4,000rpm。排気量を広げたぶんだけエンジンは重くなるはずで、前後の釣り合いが同じところにあるとは考えにくい。
そして968になった。
1991年、968が出る。2,990ccをS2から継承し、可変バルブタイミング機構VarioCamを与えて240PS/176kW——自然吸気で、ついに944ターボの220PSを上回った。ただし最大トルクは305Nmで、ターボの330Nmにはわずかに届かず、車両重量も1,370kgと、944ターボの1,280kgから90kg増えている。
968は944からの変更率が大きく、部品の約80%が新設計だったとされる。それでもホイールベースは2,400mm、トランスアクスル、トルクチューブ、バランサーシャフト、リトラクタブルヘッドライト——924から続いた要素は、そのまま最後まで残されている。そして1995年、968の生産終了とともに、924・944・928・968の4車種で19年続いたトランスアクスル時代が終わった。
944シリーズ全体の生産台数は、ポルシェ公式が163,302台としている。そのうちターボは約25,000台前後と伝えられる。1988年のターボSは約1,635台の単年モデルで、ワンメイクレース用の944 Turbo Cup にいたっては192台、市販車から272kg削ったとされるから、1,280kgから引けば約1,008kgになる。同じ220PSでパワーウェイトレシオは4.58kg/PS——市販車の5.82kg/PSに対して、この差が、レース用に何を捨てたかを物語る。
DUAD SELECT
640/640が載っている紙を、手元に置く。
整備書のTechnical Dataは、本文で引いた640kg/640kg/1,280kgがそのまま並んでいるページを持つ。ネット上のスキャンで読むこともできるが、ガレージで手を汚しながら開く紙は別物にあたる。924〜968の全体像を追う本と合わせると、記事で触れた年式差やMコードを自分で検証する土台になる。
本文の芯である Technical Data の軸重表が収録された整備書そのものにあたる。
Porsche 944 Workshop Manual(Bentley Publishers / 整備書)
言語: 英語・判型: ハードカバー(実測寸法は版により異なる)・対象: ポルシェ 944系(1983-1989)
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944から968までの開発経緯とグレード変遷を、一冊で追える。
Porsche 944 and 968: The Complete Story
言語: 英語・シリーズ: Crowood AutoClassics
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年式ごとの純正仕様を写真で照合できるので、中古個体のオリジナル度判定に使える。
Original Porsche 924/944/968
言語: 英語・シリーズ: Original series・対象: ポルシェ 924・944・968
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240PSの968が出てもなお、944ターボの330Nm/3,500rpmという数字は残り、整備書の一行に並んだ640kgと640kg、二つの同じ数字も同じように残された。50:50という言葉が先に一人歩きし、実数のほうが忘れられていったが、この順序は資料の性質を考えれば当然でもある。カタログは言葉で語り、公式サイトは概数で語り、実数は整備工場で働く人間に向けた本に載った。ただしその本の640/640が成り立つのは、誰も乗らず、荷物も積まず、燃料が規定量だけ入っている一瞬だけである。いま残っている一台に乗り込んでドアを閉めれば、二つの数字はその時点で違う値になっている。
951が残した、二つの同じ数字。
同じ640でも、中身は似ていない。前の640kgはほとんどが一つの塊で、エンジンがあり、その上に過給機と補機が乗る。いっぽう後ろの640kgは、変速機と最終減速機、80Lのタンク、スペアタイヤと、いくつもの部品が後輪をまたいで散らばっている。
重いものが一つと、軽いものがいくつも。それが同じ数になった。「半分に割った」という言い方がしっくりこないのは、そこだ。944ターボは対称なクルマではない。形も大きさも置き方も違うものを前と後ろに積み、量りに載せたときにだけ、同じ数字が出る。
整備書に残された640kgと640kg。その二つの数字は、異なるものを前後に配置した結果、最後に帳尻が合ったことを記録している。

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