1989年、100PS/Lの衝撃。
1989年9月21日、ホンダはシビック&CR-Xシリーズの装備充実を発表した。CR-Xには新たにSiRが追加され、シビック3ドアにもSiRとSiRIIが設定された。3つのグレードに共通して搭載されたのが、B16A型DOHC VTECエンジンである。
総排気量1,595cc、最高出力160PS/7,600rpm、最大トルク15.5kg-m/7,000rpmである。
最高出力を排気量で割ると、160÷1.595=100.31PS/Lになる。
この数字が意味するのは、単にエンジンが高回転まで回るということではない。高い回転数まで回しても、そこで十分なトルクを発生できなければ、出力は伸びない。従来の高性能自然吸気エンジンでは、高回転域の吸排気効率を優先すると、低・中回転域での扱いやすさや燃焼の安定性との両立が難しくなる場合があった。
バルブを大きく、長く開く設定は、高回転で多くの空気を取り込むうえで有利になる。しかし、低回転域では必ずしも最適ではない。ホンダは、この相反する要求に対して、バルブの作動特性そのものを切り替える方法を選んだ。それがDOHC VTECである。
1989年のB16Aは、単に160PSを達成したエンジンではなかった。低・中回転域と高回転域の双方で、異なる吸排気特性を利用できるエンジンだった。
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切り替わるのは、何なのか。
VTECは、Variable Valve Timing and Lift Electronic Control Systemの略称である。日本語では可変バルブタイミング・リフト機構と呼ばれる。一般的な固定式の動弁機構では、カムシャフトの形状によって、バルブが開くタイミング、開いている時間、最大リフト量が決まる。
低回転で効率よく燃焼させるための設定と、高回転で多くの空気を取り込むための設定は、必ずしも一致しない。B16AのDOHC VTECは、この違いに対応するため、低速用と高速用の異なるカムプロフィールを用意した。その中心となるのが、3本のロッカーアームである。
吸気側と排気側のそれぞれで、1組の2つのバルブに対して3本のロッカーアームを配置する。低回転域では、左右のロッカーアームが低速用カムの動きを、それぞれのバルブへ伝える。中央のロッカーアームは高速用カムに従って動いているが、この状態ではバルブを直接駆動しない。
所定の運転条件になると、油圧によってロッカーアーム内部の連結ピンが作動する。3本のロッカーアームが一体となり、高速用カムのプロフィールに従ってバルブが開閉するようになる。つまり、VTECはカムシャフトそのものを移動させる機構ではない。
異なる形状のカムをあらかじめ用意し、ロッカーアームの連結状態を変えることで、バルブの作動特性を切り替える仕組みである。B16Aでは、これを吸気側だけでなく排気側にも採用した。吸気バルブから多くの空気を取り込むだけでは、高回転域の高出力は実現しない。燃焼後の排気ガスを効率よく排出することも重要になる。
吸気と排気の両方でバルブ作動を変えるDOHC VTECは、そのための技術だった。
5ccの差に、12.6mmの違い。
ZC型とB16A型の排気量差は5cc。ZCの1,590ccに対して、B16Aは1,595ccである。
1気筒あたりの排気量に換算すると、ZCが397.5cc、B16Aが398.75cc。その差は1.25ccまで小さくなる。しかし、シリンダー内径と行程を比べると、設計の方向性は大きく異なる。
| 総排気量 | 1,595cc | ZCは1,590cc |
|---|---|---|
| 内径 | 81mm | ZCは75.0mm |
| 行程 | 77.4mm | ZCは90.0mm |
| 行程/内径比 | 0.96 | ZCは1.200 |
| 圧縮比 | 10.2 | ZCは9.5 |
| 最高出力 | 160PS | 7,600rpm/ZCは130PS・6,800rpm |
| 最大トルク | 15.5kg-m | 7,000rpm/ZCは14.7kg-m・5,700rpm |
ZCの行程は90.0mm。内径75.0mmに対して行程が長い、ロングストローク型である。B16Aは内径81.0mm、行程77.4mm。内径より行程が短い、ショートストローク型になる。B16AはZCより内径が6.0mm大きく、行程は12.6mm短い。
排気量はほぼ変わらないのに、シリンダーの形状は大きく変わっている。内径を大きくすると、吸排気バルブを配置する空間を確保しやすくなる。バルブ径や吸排気ポートの設計自由度を高められることは、高回転域での吸排気効率を考えるうえで重要だ。
一方、行程を短くすると、同じ回転数での平均ピストン速度を低くできる。B16Aでは、圧縮比もZCの9.5から10.2へ高められた。ただし、ショートストローク化だけで160PSが実現したわけではない。燃焼室形状、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、吸排気系、点火制御などを含めた設計が必要になる。
同じ1.6Lでも、ZCとB16Aは異なるエンジンだった。
トルクを、どこで出すか。
B16Aが最高出力を出すのは7,600rpm、最大トルクを出すのは7,000rpmである。ここで注目したいのは、その最大トルクがどこで出ているかである。
ZCが5,700rpmで14.7kg-mを出すのに対して、B16Aのピークは7,000rpmまで上がる。最大トルクそのものの増加は0.8kg-m、約5.4%にとどまる。しかし、最高出力は130PSから160PSへ、約23.1%増加した。増加率の開きは、トルクを発生する回転域の違いから出てくる。
エンジンの出力は、トルクと回転数の積に比例する。同じトルクでも、より高い回転数で発生すれば出力は大きくなる。B16Aは最大トルクの発生回転数がZCより1,300rpm高い。さらに7,600rpmまで十分なトルクを維持することで、160PSを発生した。
最大トルクの値を大幅に増やすのではなく、高回転域までトルクを維持する。B16Aの高出力化には、そうした特徴があった。ここで排気量あたりの最大トルクを比較すると、ZCは約9.25kg-m/L、B16Aは約9.72kg-m/Lになる。
その増加率は約5.1%で、出力の伸びには届かない。一方、排気量あたりの最高出力は約81.8PS/Lから約100.3PS/Lへ、約22.6%増加している。この差は、B16Aが高回転域の性能を大きく伸ばしたことを示している。
高回転なのに、ピストンは遅い。
B16Aの内径×行程が81.0×77.4mmになったことで、平均ピストン速度に興味深い数字が生まれる。ピストンはクランクシャフトが1回転する間に、上死点から下死点へ移動し、再び上死点へ戻る。
移動距離は行程の2倍。平均ピストン速度は、行程の2倍に毎分回転数を掛け、60で割ることで求められる。ZCの場合は2×0.0900×6,800÷60で20.40m/s、B16Aは2×0.0774×7,600÷60で19.61m/sになる。
B16AはZCより800rpm高い回転数で最高出力を発生する。それにもかかわらず、平均ピストン速度は約0.8m/s低い。行程を90.0mmから77.4mmへ短くしたことが、この違いを生んでいる。もちろん、平均ピストン速度が低いからといって、B16Aの機械的負荷がZCより小さいと断定することはできない。
ピストンの瞬間速度や加速度は、クランク半径、コンロッド長、回転数などによって変わる。高回転化すれば、往復運動部品に作用する慣性力も増える。平均ピストン速度は、エンジンの設計を比較するためのひとつの指標にすぎない。それでも、B16Aがなぜショートストロークを採用したのかを考えるうえで、この数字は示唆的である。
高回転まで使うエンジンのほうが、最高出力発生時の平均ピストン速度は低かった。
160PSを、前輪へ伝える。
CR-X SiRは、エンジンだけを変更したグレードではなかった。タイヤは195/60R14で、Siの185/60R14より10mm幅が広い。
フロントブレーキには、14インチ専用の大径ベンチレーテッドディスクを採用。リアもディスクブレーキを備えた。さらに、ビスカス・カップリング式LSDをオプション設定した。
LSDはLimited Slip Differentialの略。左右の駆動輪の回転差を制限する装置である。通常のデファレンシャルギアは、旋回時などに左右の車輪が異なる回転数で回ることを許容する。
しかし、片側の駆動輪が空転しやすい状況では、駆動力を十分に路面へ伝えられない場合がある。ビスカス式LSDは、シリコーンオイルの粘性抵抗を利用して左右の回転差を制限する。1989年の価格表では、SiRへのLSD装着は6万5千円高。LSDと3チャンネル・デジタル制御A.L.B.を組み合わせた仕様は19万7千円高だった。
A.L.B.は、制動時の車輪ロックを抑えるための装置である。LSDが主に駆動力の伝達を助けるのに対し、A.L.B.は制動時の車輪ロックを抑制する。目的は異なるが、どちらもタイヤと路面の関係に働きかける装置だった。車両重量は5速MT仕様で970kg。
160PSに対するパワーウエイトレシオは、970÷160=6.06kg/PSとなる。1987年型Siの880kg・130PSから計算した6.77kg/PSと比べると、SiRは90kg重くなっても、重量あたりの最高出力が向上していた。B16Aの160PSは、1t未満のFFスポーツカーに搭載されたのである。
TIPS
ビスカス式LSDとは。
ビスカス式は、シリコーンオイルの粘性抵抗で左右の回転差を制限する。多板クラッチ式の機械式LSDとは、差動制限の出し方が違う。SiRではオプションで、単体なら6万5千円高、3チャンネル・デジタル制御のA.L.B.と組にすると19万7千円高だった。つまり同じSiRでも個体によって有無が分かれる。社外品へ替わっていることもあるので、確かめるのは書類ではなく現車のほうになる。
テンロク・バトルの顔ぶれ。
1989年前後、1.6Lという排気量には、各メーカーの高性能エンジンが集まっていた。トヨタはスーパーチャージャー、三菱はターボチャージャー。日産やいすゞはDOHC自然吸気エンジンを展開し、マツダは同じ1989年に1.6LのFRオープンスポーツを発売した。
ヨーロッパにも、プジョー205 GTIをはじめとする小型高性能車が存在した。同じ1.6Lでも、最高出力の大きさだけでなく、最大トルクの発生回転数、車両重量、駆動方式などは異なっていた。
この比較で、まず注目したいのは三菱ミラージュ サイボーグターボRSである。排気量も最高出力も、B16Aと同じ値が並んでいる。しかし、その160PSを生み出す方法は、まったく異なっていた。
TIPS
テンロクは、自然吸気だけではない。
同じ1.6Lでも、ターボやスーパーチャージャーを持つエンジンはより多くの空気をシリンダーへ送り込める。その差は圧縮比にも出ていて、自然吸気のB16Aが10.2なのに対し、ターボの4G61は8.0まで下げられている。排気量あたりの出力を比べるときは、過給の有無を先に分けたい。
同じ数字、異なる思想。
三菱ミラージュ サイボーグターボRSが搭載したのは、4G61型エンジンである。1,595ccの直列4気筒DOHC16バルブに、ターボチャージャーと電子制御燃料噴射のECIマルチを組み合わせていた。最高出力は6,000rpmで160PS。
B16Aが7,600rpmで届いた同じ値に、1,600rpm低い回転数で届いている。もっと大きく違うのは、最大トルクのほうである。B16Aが7,000rpmで15.5kg-mなのに対して、4G61ターボは2,500rpmで22.5kg-mを出す。
| 総排気量 | 1,595cc | 4G61も1,595cc |
|---|---|---|
| 内径 | 81mm | 4G61は82.3mm |
| 行程 | 77.4mm | 4G61は75.0mm |
| 圧縮比 | 10.2 | 4G61は8.0 |
| 最高出力 | 160PS | 7,600rpm/4G61は6,000rpm |
| 最大トルク | 15.5kg-m | 7,000rpm/4G61は22.5kg-m・2,500rpm |
| 車両重量 | 970kg | ミラージュは1,030kg |
最大トルクは三菱が約45%大きく、その発生回転数はホンダより4,500rpm低い。4G61ターボも、B16Aと同じくショートストローク型だった。しかし、ホンダは高回転まで吸排気効率を高めることで160PSを実現し、三菱は過給機によって吸入空気量を増やし、大きなトルクを発生させた。
圧縮比にも違いがあり、B16Aの10.2に対して4G61ターボは8.0である。過給機を備えるエンジンでは、シリンダー内の圧力や温度が高くなる。圧縮比8.0という値は、その条件の上に置かれている。車両重量は、CR-X SiRが970kg、ミラージュ サイボーグターボRSが1,030kg。
パワーウエイトレシオは、それぞれ6.06kg/PSと6.44kg/PSになる。CR-Xのほうが60kg軽く、重量あたりの最高出力では有利だ。一方、ミラージュには22.5kg-mという大きな最大トルクがある。実際の加速性能は、ギア比、回転域ごとの出力特性、駆動輪のトラクション、タイヤなどによって変わるため、この数値だけで優劣は決められない。
ただし、エンジンの性格が異なることは明確である。同じ1,595cc、同じ160PS。1989年には、自然吸気とターボという2つの異なる方法で、その数字に到達したエンジンが存在していた。
TIPS
ミラージュには4WDもあった。
1989年9月のミラージュには、4G61ターボを積む4WD仕様も設定されていた。4WDのサイボーグツインカムターボは160PSで、車両重量はFF仕様より重い。自然吸気130PSの4WDサイボーグRSとは別仕様になる。同じ「サイボーグ」の名でも中身は複数あるので、グレード名だけでエンジン性能を判断しないようにしたい。
145PSのMRと、120PSのFR。
トヨタMR2のスーパーチャージャー仕様は、B16Aとは別の方法で高性能化を進めていた。搭載された4A-GZE型は、1,587ccのDOHC16バルブエンジンに機械式スーパーチャージャーを組み合わせたものだ。1988年の改良後の国内仕様では、最高出力145PS、最大トルク19.0kg-m/4,400rpmを発生した。
CR-X SiRより15PS低いが、最大トルクは3.5kg-m大きい。ターボチャージャーが排気ガスのエネルギーを利用するのに対し、スーパーチャージャーはエンジンの動力でコンプレッサーを駆動する。過給機の駆動方法が異なれば、応答性や過給特性も変わる。
さらにMR2は、エンジンを運転席後方に搭載して後輪を駆動するMRレイアウトを採用していた。CR-XはFF、MR2はMR。同じ1.6Lでも、エンジンの搭載位置と駆動方式が異なるため、加速時の荷重移動や駆動輪のトラクション、旋回時の車両挙動も変わる。
一方、1989年9月に登場したユーノスロードスターは、1,597ccのB6-ZE型DOHCエンジンで120PSを発生した。車両重量は5速MTの標準仕様で940kgなので、パワーウエイトレシオは約7.83kg/PSになる。CR-X SiRより40PS低いが、ロードスターが目指したのは、最高出力の大きさだけではなかった。
FRレイアウト、軽量な車体、前後ダブルウイッシュボーン式サスペンション、オープン2シーターという構成によって、運転そのものの楽しさを追求していた。1989年9月、CR-X SiRとユーノスロードスターは、ほぼ同じ時期に市場へ登場した。FFクーペで160PS。
FRオープンで120PS。同じテンロクでも、2台が選んだ答えは異なっていた。
TIPS
MR2の4A-GZE。
4A-GZEは、自然吸気DOHCの4A-GE系を基礎とするスーパーチャージャー仕様である。吸気系も圧縮比も違うので、同じエンジンとして扱うことはできない。スーパーチャージャーはエンジンの動力でコンプレッサーを回すため、排気でタービンを回すターボとは応答の出方も変わる。MR2の最高出力は年式でも動き、145PSは後期型の代表値になる。
日本と、ヨーロッパ。
日産 エクサには、1,598ccのCA16DE型DOHC16バルブエンジンが搭載されていた。最高出力は120PS/6,400rpm、最大トルクは14.0kg-m/5,200rpmである。ただし車両重量は1,070〜1,110kgで、CR-X SiRの970kgより100kg以上重い。40PSの差に、100kgの差が重なることになる。
そのぶんエクサは、別のところへ割り振っていた。リアのキャノピーを架け替えることで、クーペとシューティングブレークを選べる構造にしている。屋根をどうするかという話は、CR-Xのグラストップだけのものではなかった。
いすゞジェミニは、出力の数字とは別のところにも手を入れていた。
1988年2月に加わった「ZZ ハンドリングbyロータス」——年表によっては3月とするものもある——は、いすゞ初の4バルブDOHCとなる4XE1型を積んでいた。1,588ccで135ps/7,200rpm、最大トルク14.3kgm/5,600rpm。8,000rpm近くまで回る高回転型で、ホンダだけが回していたわけではないことが分かる。
そのうえで、足まわりのチューニングは英国のロータスに委ねた。BBSホイールをオプションに置き、前席にはレカロ製のセミバケットシートを標準で付けている。4ドアセダンの車両重量は960kgで、CR-X SiRの970kgとほぼ変わらない。パワーウエイトレシオは7.11kg/PSとなり、SiRの6.06kg/PSとの差は1.05kg/PSになる。
いすゞは同じ車体に、性格の違う2つのスポーツ仕様を並べてもいた。イルムシャーが高い走行性能のヨーロピアン・スポーツなら、ZZ ハンドリングbyロータスは、高性能でありながら落ち着いた操縦性のラグジュアリ・アダルトスポーツ。同じ1.6L DOHCを積みながら、狙う相手が違っていた。
そしてこの4XE1型の一族は、のちにCR-X SiRを追い越す。1990年の3代目に載ったインタークーラー付きターボの4XE1-T型が180PSを出し、1,600ccクラス最強の座は、ホンダ シビック タイプRに185PSのB16B型が載るまで動かなかった。
海外に目を向けると、プジョー205 GTI 1.6が興味深い存在だった。1989年前後の欧州市場向け代表仕様が、1,580ccの自然吸気エンジンで115PSを発生していた。DOHCでも16バルブでもなく、SOHCの8バルブエンジンだった。
車両重量は代表仕様で約850kg。パワーウエイトレシオは約7.39kg/PSとなる。CR-X SiRより45PS低いが、車両重量は約120kg軽い。プジョー205 GTIは、最高出力を追い求めるのではなく、軽量な車体とエンジン、足まわりの組み合わせによって俊敏な走りを実現していた。
同時代のヨーロッパには、フォード フィエスタ XR2i 1.6やオペル コルサ GSi 1.6などのホットハッチも存在した。いずれもコンパクトな車体に高性能エンジンを組み合わせたモデルだが、B16Aの160PSとは異なる方向性を持っていた。
すべてのメーカーが、同じテンロクという条件で競っていたわけではない。それでも、1989年前後の1.6Lスポーツカーを並べると、自然吸気、ターボ、スーパーチャージャー、FF、FR、MRという多様な組み合わせが見えてくる。
その中でB16Aの160PSは、自然吸気という条件において際立った数字だった。
SiRという、21万7千円の差。
1989年9月、CR-X SiRの東京地区希望小売価格は154万7千円だった。同じ価格表に掲載された1.6Siは133万円で、差額は21万7千円になる。
SiRにはB16A型エンジン以外にも、195/60R14タイヤ、大径フロントブレーキ、専用リアスポイラー、ハイマウントストップランプ、本革を使用したステアリングホイールやシート表皮などが与えられていた。21万7千円を、単純に30PSの追加料金と考えることはできない。同じB16Aを搭載するシビック3ドアVTEC Si-Rは145万9千円、Si-RIIは153万9千円だった。
CR-X SiRは、シビックSi-Rより8万8千円高く、Si-RIIより8千円高い。ホンダは同じ160PSのエンジンを、異なる車体と装備構成で展開していた。一方、同じ1989年9月の価格表で、三菱 ミラージュ サイボーグターボRSは140万5千円。
CR-X SiRより14万2千円安い。
DUAD SELECT
カムの切り替えを、断面図で追う。
VTECの構造は、低速用と高速用のカムを切り替えるという説明で止めてあるが、実際にどのロッカーアームがどう連結されるかは図がないと像が結ばない。断面図と作動図で解説した技術誌を1冊持っておくと、B16A以降の各型を比べるときの基準ができる。紙のバックナンバーが入手しにくい場合は電子版が現行で読める。
カム切り替えの作動を断面図で追える。記事で公表範囲に止めた部分を自分で確かめられる。
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ただし、両車は装備や車体構成が異なるため、この価格差をそのままエンジン技術のコスト差とみなすことはできない。自然吸気160PSのCR-Xと、ターボ160PSのミラージュ。同じ最高出力を持つ2台が、異なる価格で販売されていた。
TIPS
SiRに4速ATはなかった。
CR-Xの1.5XとSiには4速ATが設定されていたが、B16Aを積んだSiRは5速MT仕様で登場した。価格表の下に並ぶ「4速ATは8万円高」という注記は車種全体のもので、SiRの欄には効かない。中古でAT車のSiRを見かけたら、それは当時の設定には無かった組み合わせになる。
VTECは、1.6Lを変えた。
ZC型からB16A型へ、シリンダーの形がロングストロークからショートストロークへ反転し、そこへDOHC VTECが加わった。低・中回転域と高回転域で、異なるバルブ作動特性を使い分けられるようになったエンジンである。
その結果として出てきたのが、回転数を上げながら平均ピストン速度を下げるという組み合わせだった。高く回すエンジンのほうが、ピストンはゆっくり動いていた。
1989年には、三菱が同じ1,595ccのターボエンジンで160PSを実現していた。トヨタはスーパーチャージャーで145PSを発生し、日産やいすゞ、マツダ、海外メーカーも、それぞれ異なる方法で1.6Lスポーツカーを成立させていた。
その中で、ホンダは自然吸気を選んだ。過給機を使わず、排気量をほぼ変えず、バルブの作動特性とエンジン内部の設計を変えることで、160PSを実現した。そして、そのエンジンを970kgのFFスポーツカーに搭載し、リッター100PSという小さなスーパーカーを作り上げた。

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