ティアドロップという答え。
初代バラードスポーツCR-Xが直線的なウェッジシェイプを特徴としていたのに対し、1987年に登場した2代目は、曲面を主体としたボディへと姿を変えた。Hondaが掲げたのは、ティアドロップシェイプ。前後を絞り込んだ涙滴形の造形である。
全長3,755mm、全幅1,675mm、全高1,270mm。初代より全長を延ばしながら、低く幅広いプロポーションを維持した。短いノーズからフロントウインドウ、ルーフ、リアウインドウへと続く面は、初代とは明らかに異なる。この変化は、CR-Xだけのものではなかった。同時に登場したシビック3ドア、セダン、シャトルにも共通する造形思想が「フラッシュ&ブレンディ」である。ボディ表面の段差を抑え、隣り合う面を滑らかにつなぐ。2代目CR-Xは、その考え方を全高1,270mmのコンパクトなボディに凝縮した。
一方、パッケージングには「ヒューマン・フィッティング・テクノロジー」という考え方が採用された。人間に合わせて機械を設計するという思想である。乗車定員は4名ながら、後席は短距離移動を想定したワンマイル・シート。2人を中心とした空間設計は、初代から引き継がれていた。
| 全長 | 3,755mm | |
|---|---|---|
| 全幅 | 1,675mm | 5ナンバー枠まで25mm |
| 全高 | 1,270mm | |
| ホイールベース | 2,300mm | VOL.1で詳述 |
| トレッド前 | 1,450mm | |
| トレッド後 | 1,455mm | 前より5mm広い |
| 最低地上高 | 150mm | |
| 車両重量(最軽) | 820kg | |
| 車両重量(第2区分) | 850kg | |
| 車両重量(第3区分) | 880kg | |
| 車両重量(最重) | 900kg | |
| 乗車定員 | 4名 | 後席はワンマイル・シート |
| 空気抵抗係数 Cd | 0.3 | 4車で最小 |
| 揚力係数 CL | 0.1 | 3ドアの5倍 |
| ヨーイング・モーメント係数 CYM | 0.03 | ヨーアングル6°時 |
| 全周視界角度 | 310度 | 着座センターから |
| ボンネット不可視長 | 670mm | |
| 前方不可視長 | 6,250mm | |
| ドア段差(フラッシュサーフェス) | 5mm | メインシール3重 |
| ヘッドライト レンズ高 | 94mm | ポリカーボネイト |
| グラストップ面積比 | 1.7倍 | シビック3ドアのガラスサンルーフ比 |
| 全長/全高比 | 2.96 | 算出値 |
ただし、涙滴形をそのまま実現するには、CR-Xの全長は短すぎた。後方へ絞り込んだボディをどこで終わらせるのか。その答えが、独特なテールゲートの形につながっていく。
1みんなの写真
Cd 0.33から0.30へ。
1987年9月、Hondaが発表したシビック一族4車の空気抵抗係数には、明確な差があった。CR-XがCd 0.30、シビック3ドアが0.33、セダンが0.35、シャトルが0.37。同じ開発世代に属する4車でありながら、最大と最小の開きは0.07に達していた。
シャトルの全高は1,470mmで、CR-Xより200mm高い。ただし、Cdは車高だけで決まるものではない。前面の形状、ルーフからリアへ続くライン、床下を通る気流など、車体全体の設計が関係する。
ここで注意したいのは、0.33という数字が2つの異なる車種を指していることだ。ひとつは同時に登場したシビック3ドア。もうひとつは、Hondaが2代目CR-Xの資料で従来値として示した初代バラードスポーツCR-XのCdである。
2代目CR-Xは、初代の0.33から0.30へと空気抵抗係数を低減した。差は0.03。率にすれば約9.1%になる。
ただし、実際の空気抵抗はCdだけでなく、前面投影面積や速度によっても変わる。係数の減少率が、そのまま走行抵抗や燃費の改善率になるわけではない。Hondaが空力改善の要点として挙げたのは、リアウインドウの傾斜角、コーダトロンカ形状のテールゲート、そしてテールラインの整流効果だった。
いずれも車体後部に関係する設計である。Cd 0.30の理由を探るには、CR-Xの後ろへ回る必要がある。
後ろにも窓をつけた理由。
空気抵抗を減らすには、車体の後方で空気の流れをどう処理するかが重要になる。理想的な流線形を追求すれば、ボディは後ろへ長く伸びていく。しかし、全長3,755mmのCR-Xに、その余裕はない。そこで採用されたのが、コーダトロンカ形状だった。
イタリア語で「切り落とされた尾」を意味するこの手法は、後端を短く切り落とし、限られた全長の中で空気の流れを処理する考え方である。
2代目CR-Xでは、大きく傾斜したリアウインドウの下に、ほぼ垂直な面が現れる。そしてHondaは、その面を鉄板で塞がず、ガラスをはめ込んだ。エクストラウインドウである。Hondaの当時の資料は、この窓について、ガラス面積の拡大による爽快感と、CR-X独自の後ろ姿を特徴づけるデザイン上の役割を説明している。さらに、リアウインドウの傾斜角とコーダトロンカ形状を、Cd 0.30の実現に結びつけている。
つまり、エクストラウインドウは単なる装飾ではなかった。空力を考えてつくられたテールゲートの垂直面に、開放感とデザイン上の個性を与えた窓だったのである。
後方視界への寄与も考えられるが、窓の追加によって死角が何度減ったのか、Hondaの公表資料に比較値はない。
テールゲートの下には、大型リアコンビネーションランプが配置された。ターンシグナル、ブレーキ&テールランプ、バックランプを横一列に並べ、その下を赤いガーニッシュが横切る。
傾斜したリアウインドウ、垂直面のエクストラウインドウ、そして横長のリアランプ。2代目CR-Xの後ろ姿は、異なる役割を持つ部品を水平に重ねることで構成されていた。
傾斜した上段と、垂直な下段。2枚のガラスは、同じテールゲートの上で段差をはさんで並んでいる。上段は空気の流れを処理するために寝かせた面であり、下段は切り落とした後端に現れた垂直面を、鉄板で塞がずにガラスへ置き換えた面である。
その隣に、2つの係数があった。
1987年9月のHondaの資料には、CR-Xの空力性能を示す3つの係数が並んでいる。空気抵抗係数Cd 0.30、揚力係数CL 0.10、そしてヨーアングル6度時のヨーイング・モーメント係数CYM 0.03である。Cdは同時に登場したシビック一族4車の中で最小だった。しかし、CLを比較すると順位が変わる。
シビック3ドアが0.02、セダンが0.03、CR-Xが0.10、シャトルが0.20。CR-Xの揚力係数は、シビック3ドアの5倍にあたる。
空気抵抗と揚力は、どちらも走行中の車体に働く空気の力だが、示している方向が異なる。Cdが小さいことと、CLが小さいことは同じではない。CR-Xは空気抵抗を小さく抑えながら、揚力係数ではシビック3ドアより大きな値を示していた。ただし、係数が5倍だからといって、実際の揚力まで5倍になるとは限らない。前面投影面積などの条件が関係するためだ。
5倍
3ドアの揚力係数に対する倍率
CR-X 0.10 ÷ シビック3ドア 0.02。Cdが最小の形から、同時に出てきた数字である。
もうひとつの係数がCYMである。車体に対して斜めから風が当たったとき、車体を回転させようとするモーメントを表す。CR-Xの公称値は、ヨーアングル6度時で0.03。シビック3ドア、セダン、シャトルは、いずれも0.05である。
Cd 0.30だけを見れば、空気抵抗の少ないクルマという説明で終わる。しかし、CLとCYMを並べると、その評価はもう少し複雑になる。空気抵抗、揚力、横風による回転モーメント。Hondaが公表した3つの係数は、同じボディを異なる方向から測った結果だった。
そして、その空力性能を支えていたのは、テールゲートの形状だけではない。バンパーやサイドシル、ドアミラーなど、車体の細部にも空気の流れを考えた設計が施されていた。
TIPS
価格表の4行目に、特別仕様車がいる。
1989年9月の価格表には、1.5Xと1.6Siのあいだに「1.5X Gスペシャル」という行がある。東京で123万4千円。素の1.5Xより11万8千円高く、1.6Siより9万6千円安い。エンジンは1.5Xと同じD15B型なので、差額ぶんはすべて装備に乗っている。中古車の表記が「1.5X」だけのことも多いので、気になる個体は車検証と装備で確かめたい。
5mmの段差と、94mmのライト。
ボディ全体の形を整えるだけでは、空気抵抗は減らせない。窓とドアの段差、ヘッドライトの高さ、ドアミラーの形状。空気が触れる場所には、それぞれ改善の余地があった。CR-Xのフラッシュサーフェス・サッシュドアは、ボディ面とガラス面の段差を5mmに抑えている。さらにメインシールを3重構造とし、風切り音や室内への風もれ音の低減を図った。
細型ピラーは断面形状を見直し、ボディ剛性の向上にも寄与している。フロントには、レンズ高94mmの超偏平ヘッドライトを採用した。ポリカーボネイトを使用した樹脂製レンズは、軽量化に加え、ボディとの一体感を高める役割も担った。低いノーズを成立させるうえで、ヘッドライトの薄さは重要な要素だった。
ドアミラーにも工夫がある。ステーを薄く幅広く設計し、ミラー本体をボディから分離することで、空力性能と風切り音の低減を両立させた。
車体下部では、大型一体カラード・エアロバンパーが床下へ入り込む気流を抑え、ボディロア・プロテクションガーニッシュも空力性能の向上に寄与した。後者は本来、飛び石や錆からボディを守るための部品である。保護と空力という異なる役割が、同じ部品に与えられていた。
Siには、ボンネット上のパワーバルジとフロント・ロアスカートが加わる。1987年の主要装備表では、どちらもSiの欄にだけ印が付いていて、1.5Xには設定がない。外観からグレードを見分けられる特徴であると同時に、パワーバルジには「空力的にも優れたデザイン」という一句が添えられていた。ただし膨らみの高さや容積に数字は付いていない。
DUAD SELECT
樹脂とゴムから先に戻す。
H.P.BLEND製の大型カラードバンパーも、ポリカーボネイトのヘッドライトも、3重のメインシールも、すべて樹脂とゴムでできている。つまり、鉄より先に劣化する。段差5mmの面やレンズ高94mmの薄さは、素材が白ボケしたり黄変したりした時点で、設計の意図ごと見えなくなる。手を入れるなら、ここが最初の一手になる。
大型一体カラードバンパーは経年で白ボケしやすく、外装の印象がここで決まる。
未塗装樹脂・カラードバンパー用 色戻しコーティング剤
内容量: 製品により50〜300mL・施工対象: 未塗装樹脂・樹脂バンパー・持続期間: 製品表示を確認・価格は製品により変動(2026年10月16日時点)
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レンズ高94mmのオール樹脂ヘッドライトは、黄変すると薄さの印象まで失われる。
ヘッドライト ポリカーボネイト用クリーナー&コート
対象素材: ポリカーボネイト・内容: 研磨剤+保護コート2剤式が主流・施工時間: 片側10〜30分程度・価格は製品により変動(2026年10月16日時点)
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そして2代目CR-Xでは、この山が途中で消える。ボンネットに山を立てるという手は、初代のSiから続いている。初代では2個の大径カムプーリーを収めるために設けられたもので、2代目のSiにも先代同様のバルジが付いた。そして後期型では、ボンネットの断面が凹型から凸型へ変わり、バルジは不要になって廃止されている。
5mmの段差、94mmのライト、薄く設計されたドアミラーステー。Cd 0.30という数字の背景には、こうした細部の積み重ねがあった。
TIPS
ボンネットの山は、前期だけ。
1987年の主要装備表で、パワーバルジに印が付いているのはSiだけ。1.5Xには設定がない。同じ欄のフロント・ロアスカートもSi専用で、この2つは必ずセットで付く。そして後期型ではボンネットの断面そのものが変わり、バルジは廃止された。つまり山があれば前期のSiで確定する。無い場合は1.5Xか後期型かのどちらかなので、ロアスカートの有無と合わせて見たい。
屋根をガラスにする。
2代目CR-Xには、屋根のほぼ全面をガラス化したグラストップが用意されていた。その面積は、シビック3ドアのガラスサンルーフの1.7倍。Hondaは航空機の操縦席を思わせるキャノピー感覚を、この装備の特徴としていた。
採用されたのは、多層構造の熱線反射ガラスである。チタン被膜フィルムによって外部からの熱線を抑え、ブロンズ色フィルムで室内反射を低減する。サンシェードを設けず、頭上の開放感を優先した設計だった。
もうひとつの選択肢が、電動アウタースライド・サンルーフである。こちらはガラスで覆うのではなく、ルーフを外側へスライドさせて開く構造を採用した。グラストップとの同時装着はできない。
1989年9月の価格表では、パワーステアリング、パワーウインドウ、可倒式電動リモコンドアミラーのセットが6万6千円高。グラストップとブロンズガラスを加えたセットは11万円高、電動アウタースライド・サンルーフを加えたセットは13万7千円高だった。基本のパワーセットとの差額は、それぞれ4万4千円と7万1千円。ただし、グラストップ側にはブロンズガラスも含まれるため、屋根単独の価格ではない。
さらに、17万6千円高のスーパーサウンド・システムは、グラストップを含むセットの装着車に設定されていた。オーディオの選択まで、屋根の仕様と結びついていたのである。開く屋根か、透ける屋根か。1987年のCR-Xでは、頭上の開放感にも異なる選択肢が用意されていた。
TIPS
屋根は、上から確認する。
中古車の写真でグラストップとサンルーフを見分けるなら、ルーフ全体を上から写した1枚が要る。グラストップは屋根のほぼ全面がガラスで、その面積はシビック3ドアのガラスサンルーフの1.7倍。対してサンルーフは開閉のための切れ目が1本入る。この2つは同時装着できないので、見分けは3通りしかない。ガラス屋根か、切れ目1本か、何もないか。
310度の視界をつくる。
全高1,270mmの低いボディで、Hondaは視界の広さも追求していた。その設計思想に与えられた名前が、スーパー・ビジビリティ。周囲の気配まで感じられるような視界を目指したことから、「気配キャビン」とも呼ばれた。公表された全周視界角度は310度。着座センターからの視野角で、360度との差は50度になる。
310度
着座センターから見える角度
全周視界角度310°。360°との差は50°で、円のおよそ7分の1だけが見えない。
その視界を成立させたのは、低いボンネットと短いノーズ、面積を広げたガラス、細型ピラー、そして後方へ配置したフロントピラーだった。フロントウインドウを左右へ大きく回り込ませることで、低い着座位置からも周囲を見渡せるようにしている。Hondaは、ボンネット不可視長670mm、前方不可視長6,250mmという数値も公表した。
前者はボンネットの見えない部分に関する値、後者は車両前方の路面が見え始める位置に関する値であり、異なる指標である。
| 全周視界角度 | 310度 | 着座センターから |
|---|---|---|
| 死角 | 50度 | 360−310、算出値 |
| ボンネット不可視長 | 670mm | |
| ボンネット不可視長/全長比 | 17.8% | 670÷3,755、算出値 |
| 前方不可視長 | 6,250mm | |
室内では、運転席を包み込むラップラウンド形状のインストルメントパネルや、運転席側へ向けたツイステッド・センターコンソールを採用した。走行中に外気を取り込むラム圧ベンチレーションや、サイドウインドウの曇りを除去する独立したサイドデミスターも装備された。運転席を中心に、操作性と視界を考えた機能が集められていた。
低い屋根と広い視界。相反するように見える2つの条件を、Hondaはガラスの面積とピラーの配置によって両立させようとしていた。後ろのエクストラウインドウも、そうしたガラスを積極的に使うボディデザインの一部だった。
TIPS
エクストラウインドウは、内側からも見る。
ガラスの傷や曇りだけでなく、周囲のシールとテールゲート内側の状態にも目を向けたい。雨水の侵入跡やゴムの硬化は、外から眺めただけでは分からない。内張りを少しめくって、下端に白い粉のような跡がないかを見る。水が溜まった形跡があれば、そこから錆が進む。交換部品の入手が難しくなった旧車では、ガラスそのものより周りが問題になる。
後ろ姿に、理由がある。
初代からボディの造形を大きく変えたのが、1987年のCR-Xだった。直線的なウェッジシェイプから、曲面を主体としたティアドロップシェイプへ。その変化は、Cd 0.30という数字にも表れている。
空力性能を追求した結果、車体の後端にはコーダトロンカ形状が採用された。そして、その垂直面にエクストラウインドウが設けられた。空気の流れを考えた形が、ガラスを入れることで、ほかのクルマにはない後ろ姿になった。
ホンダはこの窓に、室内の開放感と、CR-Xを特徴づけるデザインという役割も与えている。全高1,270mmのボディに、310度の全周視界。屋根には、開くサンルーフとは別に、ほぼ全面をガラス化したグラストップまで用意された。
低く、短く、空気抵抗の少ないスポーツカーをつくる。その一方で、乗る人には広い視界と開放感を与える。2代目CR-Xのボディは、この2つの要求を見事に同居させた。

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