カタログに並んだ、2つの16バルブ。
シビックとCR-Xが並んで発表されたのが1987年9月9日、CR-Xが店に並んだのが9月16日。車両型式E-EF6の1.5Xと、E-EF7のSiがベルノ店のラインナップに並んだ。
1.5XのD15B型は1,493cc、SiのZC型は1,590ccで、排気量の違いは97ccにすぎない。ところが最高出力は105PSと130PSで、そこには25PSの差があった。1987年のホンダは、新しいエンジン群を「ハイパー16バルブ」として展開していた。シビックには1.3Lから1.6Lまで複数の仕様を用意し、SOHC16バルブ、デュアルキャブレター、PGM-FI、DOHCを使い分けている。
CR-Xには、その中からD15BとZCが選ばれた。どちらも水冷直列4気筒横置き、ベルト駆動の16バルブエンジンである。燃焼室はペントルーフ形を採用し、吸気バルブ2個、排気バルブ2個を備える。
| 総排気量 | 1,493cc | ZCは1,590cc |
|---|---|---|
| 内径 | 75mm | ZCも75.0mm |
| 行程 | 84.5mm | ZCは90.0mm |
| 圧縮比 | 9.2 | ZCは9.5 |
| 最高出力 | 105PS | 6,500rpm/ZCは130PS・6,800rpm |
| 最大トルク | 13.2kg-m | 4,500rpm/ZCは14.7kg-m・5,700rpm |
| 車両重量 | 820kg | Siは880kg |
| 10モード燃費 | 16.4km/L | Siは15.2km/L |
同じ16バルブでも、それを動かす仕組みは異なる。1.5Xでは1本のカムシャフトが16個のバルブを駆動し、Siでは2本のカムシャフトが吸気側と排気側を分担する。同じ車体に2つのエンジンを搭載したことは、グレードを選ぶことが、異なるエンジン構造を選ぶことでもあったことを意味している。
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SOHCなのに、16バルブ。
SOHCはSingle Overhead Camshaftの略。シリンダーヘッドに1本のカムシャフトを持つ方式である。DOHCはDouble Overhead Camshaft。吸気側と排気側に、それぞれカムシャフトを配置する。
一般的な説明では、SOHCは構造が簡単で、DOHCは高回転・高出力に適しているとされる。しかし、カムシャフトの本数とバルブ数は、本来別の問題である。D15B型は、その違いを示すエンジンだった。
1本のカムシャフトで、1気筒あたり4個のバルブを動かす。4気筒で合計16バルブ。中央には点火プラグが配置され、燃焼室にはペントルーフ形が採用された。ホンダは、1本のカムシャフトからロッカーアームを介して吸気側と排気側のバルブを駆動する機構を採用した。
その狙いのひとつは、シリンダーヘッドの小型化にある。DOHCでは基本的に2本のカムシャフトとそれを駆動する機構が必要になるが、SOHCならカムシャフトは1本で済む。1987年のホンダ公式資料は、SOHC16バルブによってシリンダーヘッドの幅と高さを抑え、エンジンのコンパクト化を実現したと説明している。ただし、4バルブを駆動するためのロッカーアームなどは必要であり、構造全体が単純になるとは限らない。つまりD15Bは、単にDOHCを採用しなかったエンジンではない。4バルブ化による吸排気効率と、SOHCによるコンパクトな構成を両立させようとしたエンジンだった。
ホンダはこのエンジン群に、軽量・高剛性ピストン、アルミ製シリンダーブロック、高強度タイミングベルト、小径タイミングプーリーなども採用している。105PSという出力だけでは見えてこない、構造上の工夫が詰まっていた。
キャブレターは、2つあった。
D15B型のもうひとつの特徴が、デュアルCVキャブレターである。CVはConstant Velocityの略で、負圧を利用してスロットルバルブとは別のピストンやスライドの位置を制御する方式を指す。ドライバーがアクセルを踏むと、エンジンが吸い込む空気の量が変化する。その吸気状態に応じてキャブレター内部の作動部が動き、燃料の供給量を調整する。
D15Bでは、このCVキャブレターを2つ組み合わせていた。1987年のホンダ公式資料は、16バルブと2つのCVキャブレターを組み合わせることで、応答性、高出力、低燃費を両立したと説明している。ここで注意したいのは、キャブレターを2つ使うことと、電子制御燃料噴射を採用することは、別の技術的な選択だという点である。
キャブレターは、基本的に吸入空気の流れや圧力差を利用して燃料を供給する。一方、PGM-FIは電子制御によって燃料噴射量を決定する。キャブレターでも高い性能は実現できる。しかし、温度や負荷、回転数などの条件に対して燃料供給を細かく制御する能力では、電子制御燃料噴射に利点がある。
1987年のホンダは、同じシビック&CR-Xシリーズの中で、キャブレターとPGM-FIの両方を展開していた。それは技術の新旧が単純に入れ替わる過程ではなく、性能、価格、用途に応じて異なる方式が並んでいた時代でもある。1.5XのD15B型は、その時代をよく表している。
TIPS
デュアルキャブは、4連キャブではない。
D15Bのデュアルキャブレターは、4気筒に対して2つのCVキャブレターを使う構成である。各気筒に1つずつ持つ4連キャブレターとは別物になる。見分けるなら燃料ポンプも手がかりで、1.5Xのキャブレター仕様はダイヤフラム式、SiのPGM-FIは電動式。潤滑油の量も3.8Lと4.3Lで違う。エンジンルームを覗くときは、キャブレターの数より吸気マニホールドの枝の分かれ方を見る。
1,493ccで、105PS。
D15B型の内径×行程は75.0×84.5mm。行程を内径で割ると約1.127となり、ロングストローク型に分類される。最高出力は105PS/6,500rpm、最大トルクは13.2kg-m/4,500rpmである。
排気量1Lあたりの最高出力は、105÷1.493=約70.3PS/Lとなる。
70.3PS/L
D15B型のリッターあたり出力
105÷1.493。SOHC16バルブ、キャブレター仕様での値。
自然吸気のSOHC16バルブ、しかもキャブレター仕様であることを考えると、当時の1.5Lエンジンとして注目に値する数字だ。ただし、この105PSは5速MT仕様の値である。4速AT仕様は100PS/6,300rpm、最大トルク12.8kg-m/4,500rpm。MTに対して最高出力が5PS低く、出力発生回転数も200rpm低い。
同じD15B型であっても、変速機の違いに応じて公表出力が分かれていた。さらに車両重量も異なり、5速MTが820kg、4速ATが850kgで、ここにも30kgの差がついている。105PSのMT仕様で計算したパワーウエイトレシオは7.81kg/PS。100PSのAT仕様では8.50kg/PSとなる。
エンジン型式だけを見て性能を比較すると、この違いは見落とされる。燃費についても同様だ。5速MTの10モード燃費は16.4km/L、4速ATは13.8km/L。60km/h定地燃費はMTが25.0km/L、ATが23.5km/Lだった。
燃料タンク容量45Lに5速MTの10モード燃費を掛ければ、理論上の航続距離は738kmになる。もちろん、当時の10モード燃費は規定条件下の試験値であり、実際の走行で738kmを保証するものではない。それでも、820kgの車体に105PSを組み合わせ、10モード16.4km/Lを達成していた事実は、1.5Xが出力だけを追求した仕様ではなかったことを示している。
数字をもう1つ添えておくと、1.5Xの最小回転半径4.5mはSiと共通である。燃料タンクも45Lで変わらない。客室内寸法も長さ1.545m、幅1.390m、高さ1.045mで同じ。エンジンと足まわりが違っても、車としての使い勝手にあたる部分は、2つのグレードで共通に保たれていた。
TIPS
105PSを発生するD15Bは、CR-X専用ではない。
ホンダの資料は、105PSの5速車がシビック3ドア25XとCR-X 1.5Xの2車種だと明記している。4速ATの100PS仕様はもっと広く、25Xと1.5Xに加えて、4ドアの35X・35Xエクストラ・RT X 4WD、5ドアの55X・55Xエクストラまで並ぶ。同じD15Bでも仕様はさらに分かれるので、型式だけで105PSと判断することはできない。
ZCは、カムを2本使った。
Siに搭載されたZC型は、1,590ccのDOHC16バルブエンジンである。D15Bと同じく、1気筒あたり吸気2・排気2の4バルブを採用する。しかし、バルブを駆動するカムシャフトは2本になる。
吸気側と排気側を別々のカムシャフトで制御できるため、それぞれのバルブ作動を設計する自由度が高い。燃料供給には、ホンダの電子制御燃料噴射システムPGM-FIを採用した。1987年のホンダ公式資料では、ZC型の高出力化について、圧縮比の向上、吸排気系の通気抵抗低減、ピストンのフリクション低減、点火時期の最適化などを挙げている。
つまり、130PSはDOHCという形式だけで実現された数字ではない。シリンダーヘッド、吸排気、燃焼、摩擦損失、点火制御を含めて性能を高めていた。ZC型の圧縮比は9.5で、D15Bの9.2より高い。圧縮比を高めることは、熱効率の改善につながる可能性があるが、ノッキングへの対策も必要になる。燃焼室形状や点火時期、燃料供給制御との組み合わせが重要だ。
DOHCに、PGM-FIに、圧縮比9.5。ZC型は、当時のホンダが持っていた高性能自然吸気エンジンの技術を、1.6Lという排気量にまとめたものだった。
TIPS
PGM-FIとは。
PGM-FIはProgrammed Fuel Injectionの略で、ホンダの電子制御燃料噴射システムを指す。キャブレターが吸入空気の流れや圧力差を利用して燃料を引くのに対し、こちらはセンサーの値から噴射量を決めて送り込む。原理が違うので、燃料ポンプもダイヤフラム式から電動式に変わる。「キャブレターを電子化した装置」ではない。
90.0mmのロングストローク。
ZC型の内径は75.0mmで、D15B型と同じ数字である。違ってくるのは行程のほうになる。
D15Bは84.5mm、ZCは90.0mmで、その差は5.5mmになる。4気筒すべてでピストンの移動距離を長くしたことが、97ccぶんの排気量差になっている。ZCの行程/内径比は90.0÷75.0=1.200。
D15Bの1.127よりも大きく、さらにロングストロークの度合いが強い。一般にロングストローク型は、同じ排気量のショートストローク型と比較すると、シリンダー内径を小さくできる一方、同じ回転数での平均ピストン速度が高くなる。しかし、ロングストロークだから低回転型、ショートストロークだから高回転型と単純に決めることはできない。
実際、ZCの最高出力発生回転数は6,800rpmで、D15Bの6,500rpmより300rpm高い。そこで平均ピストン速度を見てみる。行程の2倍に毎分回転数を掛けて60で割れば出る値で、D15Bは行程0.0845mと6,500rpmから18.31m/s。
ZCは行程0.0900mと6,800rpmから20.40m/sで、D15Bより約11.4%高い。ただし、この数字は平均値であり、ピストンの瞬間最高速度や加速度を表すものではない。また、エンジンの耐久性を単独で判断できる指標でもない。
ZCは、D15Bより長い行程を持ちながら、さらに高い回転数で最高出力を発生していた。この組み合わせこそ、1987年型ZCの興味深い部分である。
TIPS
ロングストロークは、低回転専用ではない。
ロングストローク型は低回転でトルクを出しやすいと説明されることがある。だがZCは行程90.0mmのロングストロークでありながら、最大トルクを5,700rpmで出し、最高出力は6,800rpmまで引っ張る。D15Bの4,500rpmと6,500rpmより、どちらも高い。行程の長さは、回る範囲を決める1つの要素でしかない。
25PSの差は、どこから来たか。
D15Bの最高出力105PSに対してZCは130PSで、増加率は約23.8%になる。一方、排気量は1,493ccから1,590ccへ約6.5%増えただけである。
仮にD15Bと同じ排気量あたり出力のまま1,590ccへ拡大したとすると、最高出力は約112PSになる。実際のZCは130PSだから、排気量増加だけでは説明できない差がある。ただし、その差をDOHC化だけの成果とみなすこともできない。
ZCでは燃料供給がPGM-FIになり、圧縮比が高まり、吸排気系やピストン、点火制御にも変更が加えられている。個々の技術が何PSを生み出したかは、公表された諸元だけでは分からない。車両重量を含めて比較すると、違いはさらに明確になる。
1.5Xの5速MTは820kg、Siは880kg。Siは60kg重いが、最高出力は25PS高い。パワーウエイトレシオは1.5Xが7.81kg/PS、Siが6.77kg/PS。数値が小さいSiのほうが、車両重量に対する最高出力は大きい。
足まわりも、エンジンに合わせて変えられている。まずタイヤが異なる。
23.8%
D15BとZCの出力差
105PSから130PS。排気量の増加は6.5%にとどまる。
1.5Xは175/70R13、Siは185/60R14。Siではタイヤ幅が10mm広がり、ホイール径が1インチ大きくなる。ブレーキは1.5Xがフロントベンチレーテッドディスク、リアドラム。Siは前後ディスクを採用した。
スタビライザーも、1.5Xはフロントのみ、Siは前後に装備する。出力と重量の差が、そのまま接地と制動と姿勢の装備差になっていた。ただし燃費では、順番が入れ替わる。
DUAD SELECT
平均ピストン速度が何を縛るのか、式の側から確かめる。
18.31m/sと20.40m/sという数字は、2×行程×回転数÷60で出る。この値が往復部品の慣性力や潤滑とどう結びつくのかは、内燃機関の教科書に式ごと載っている。行程/内径比1.127と1.200の違いを、感覚ではなく計算で扱いたいときに効く。
10モード燃費は1.5Xが16.4km/L、Siが15.2km/Lで、1.5Xのほうが1.2km/L良い。同じCR-Xでも、軽さと燃費を重視するか、最高出力と動力性能を重視するかによって、選ぶグレードは変わってくる。1.5Xを選べば、820kgの車体と16.4km/Lが手に入る。Siを選べば、130PSと前後ディスクが付いてくる。どちらを選んでも失うものがある、という形で2グレードは置かれていた。
TIPS
タイヤの外径は、ほぼ同じだった。
175/70R13の計算上の外径は約575.2mm、185/60R14は約577.6mm。差は約2.4mm、率にして約0.4%にとどまる。幅は10mm広がり、リムは1インチ大きくなっているのに、外径はほぼ据え置かれた。外径が変われば減速比もスピードメーターの読みもずれるので、履き替えるときはここを先に計算したい。実際の外径は銘柄や空気圧でも動く。
どちらも、CR-Xだった。
1987年のCR-Xは、1.5XとSiの2グレードで登場した。1.5Xには、SOHC16バルブとデュアルCVキャブレターを組み合わせたD15B型。Siには、DOHC16バルブとPGM-FIを組み合わせたZC型が搭載された。
最高出力は105PSと130PS。車両重量は820kgと880kg。同じ車体を基本としながら、2台は異なる性格を持っていた。
D15Bは、1本のカムシャフトで16個のバルブを動かし、キャブレターで105PSを発生する。ZCは2本のカムシャフトと電子制御燃料噴射を使い、130PSを発生する。どちらも当時のホンダが持つ技術を組み合わせたエンジンだった。
DOHCのSiが高性能版だったことは間違いない。しかし、SOHCの1.5Xにも、16バルブ、デュアルキャブレター、820kgという独自の魅力があった。
SOHCか、DOHCか。その違いは、単なるカムシャフトの本数ではない。1987年のホンダは、同じ16バルブという条件から、単なるグレード違いではない、2つの特性の異なるエンジンを成立させていた。

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