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FFライトウエイトスポーツ。

ホンダ バラードスポーツCR-X、全長3,675mmの挑戦。

SERIESホンダ バラードスポーツ CR-X 解体新書 VOL.1

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FFライトウエイトスポーツ。

駐車場に停まっていると、まず屋根の低さに目がいった。路面から屋根まで1,290mm、前後のタイヤのあいだは2,200mm。1983年7月1日に発売されたホンダ バラードスポーツCR-Xは、全長3,675mmという、当時のスポーツカーとしても異例に短い車体を持っていた。横置きエンジンを搭載するFFレイアウトに、実質的には2人のための室内空間を組み合わせ、コンパクトなボディの中にスポーツカーとしての走行性能を成立させようとした一台である。

ホイールベースを短くすれば、一般にクルマの向きを変えやすくなる一方、直進安定性や乗り心地との両立は難しくなる。そこでホンダは、前1,400mm、後1,415mmという比較的広いトレッドを確保するとともに、フロントサスペンションにトーションバーを採用し、全高1,290mmの低いボディと独特のウェッジシェイプを実現した。

問われているのは、単に車体を小さくしたかどうかではなく、限られた寸法の中でエンジン、乗員、足まわりにどれだけの空間を与えるかという、パッケージングの考え方である。ベルノ店でもらったカタログの諸元表を、あの頃は数字の羅列として読み飛ばしていた。買える側に立ってみると、あの数字がどこを削って出てきたのかが、急に気になりはじめる。全長3,675mm、室内長1,510mm、ホイールベース2,200mm。初代CR-Xに与えられた数字をひとつずつ引き算しながら、小さなスポーツカーを成立させるためにホンダが何を優先し、何を割り切ったのかを追う。

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軽自動車より、275mm長いだけ。

手元に巻尺があるなら、床に3,675mmの線を引いてみるといい。1983年に登場したホンダ バラードスポーツCR-Xの全長であり、現在の軽自動車の全長上限3,400mmより、わずか275mm長いだけの寸法である。この長さの中へ、エンジンと変速機、燃料タンク、乗員の空間、荷室が収まる。さらに衝突時のエネルギーを吸収するための構造まで、同じ3,675mmの中に取らなければならなかった。

全幅は1,625mm、全高は1,290mm。数字を並べるだけでも小さなクルマであることはわかるが、その特徴をより鮮明にしているのが、全長に対するホイールベースの短さである。前後の車軸間距離は2,200mmで、全長に占める割合は59.9%。残る1,475mm、全長の40.1%が前後オーバーハングの合計である。仮に前後へ半分ずつ振り分ければ、それぞれ737.5mmという計算になる。

ホイールベース2,200mm全長の59.9%前後オーバーハング合計1,475mm全長の40.1%
全長3,675mmの内訳前後のオーバーハング合計1,475mmは、全長の40.1%。衝突時に潰れてもらう余地と補機類の置き場が、ここに入っている。出典: Honda プレスインフォメーション br83-031(1983年6月)および差分計算

もちろん、実際の前後オーバーハングが等しいわけではない。エンジンを前方に搭載するFF車では、ラジエーターや補機類、衝突時の変形を考慮した構造など、前後で必要とされる空間が異なるためだ。それでも、この1,475mmという数字からは、ホンダが短い車体の中で、前後の車軸をどこに置くかという難しい課題に向き合っていたことがわかる。

一方、室内長は1,510mmで、全長に対する割合は41.1%。一般的な乗用車のように後席の居住性を優先するなら、もう少し長い室内空間が欲しくなるところだが、CR-Xはその方向を選ばなかった。むしろ、乗員のために必要な空間を割り切ることで、車体全体の寸法を小さくまとめている。その判断を象徴しているのが、次に見るリアシートの扱いである。

1みんなの写真

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2人の部屋に、何ミリ要るか。

初代バラードスポーツCR-Xの乗車定員は4名で、車体形式はリアゲートを備えた3ドアハッチバック。しかし、ホンダが掲げたキャッチコピーは「デュエットクルーザー 〜2人の自由のために〜」だった。登録上は4人乗りでありながら、商品として訴えかけたのは2人で過ごす時間であり、後席の居住性よりも前席を中心とした空間づくりに重点が置かれていた。

その考え方を端的に示しているのが、ホンダが「1マイルリアシート」と呼んだ後席である。1マイルは約1.6km。長距離を快適に移動するための席ではなく、必要なときに短距離だけ人を乗せられる補助的な空間として位置づけられていた。4人乗りという形式を残しながら、実際の使い方は2人を中心に考えるという割り切りが、CR-Xのパッケージングを特徴づけている。

室内三辺と外寸の対応
全長3,675mm
室内長1,510mm全長の41.1%
全幅1,625mm
室内幅1,340mm
全高1,290mm
室内高1,075mm全高との差215mm
室内三辺と外寸の対応室内長1,510mmは全長の41.1%。リアシートは登録上の4名ぶんであって、膝元を確保する長さではない。出典: Honda プレスインフォメーション br83-031(1983年6月)

室内寸法は長さ1,510mm、幅1,340mm、高さ1,075mm。前席2脚を中心に構成された室内の後方に、小さなリアシートを配置することで、全長を延ばさずに4名乗車という条件を満たしていた。もし後席にも十分な足元空間を求めていれば、ホイールベースや車体後部の設計は違ったものになっていただろう。CR-Xは、その余裕を積極的に求めないことで、短い車体を実現していたのである。

さらに注目したいのが、全高1,290mmに対して室内高が1,075mmという関係だ。両者の差は215mmしかなく、低いルーフラインを成立させながら乗員の頭上空間を確保するためには、シートの取り付け位置やフロア構造を含めた細かな検討が必要だったことがうかがえる。

ただし、この215mmがそのまま床下の厚みを表すわけではない。室内高は車室内の測定基準に基づく寸法であり、全高との差には測定位置や車体形状の違いも含まれる。それでも、1,290mmという低い全高の中に人が座る空間を成立させるため、ホンダが室内と機械部分の配置を綿密に考えていたことは間違いない。

低いボンネットを実現するために選ばれたフロントサスペンションも、こうした空間設計と深く関係している。乗員の居場所と機械の居場所をどのように両立させるかという課題は、CR-Xの車体全体に共通していた。

横置き1.5Lのエンジンベイが、先に要求した寸法。

CR-Xが採用したのは、エンジンを車体前方に横置きし、前輪を駆動するFFレイアウトである。縦置きエンジンに比べて前後方向の占有空間を抑えやすく、限られた全長の中で乗員のための空間を確保するには合理的な方式だった。ただし、エンジンを横に置けばそれで済むわけではなく、変速機やドライブシャフト、操舵時に前輪が動くための空間まで含めて、車体前部を設計する必要がある。

ホンダ CR-X 1.3(EV型 1,342cc)80PSキャブレターホンダ CR-X 1.5i(EW型 1,488cc)110PSPGM-FI
1.3と1.5iの最高出力排気量差146ccに対して出力差は30PS。容積が1割増えただけで、出力は4割近く高くなっている。出典: Honda プレスインフォメーション br83-031、FastestLaps(1.3)

発売時に用意されたエンジンは2種類で、1.3にはEV型1,342ccの直列4気筒SOHCを搭載し、キャブレター仕様で最高出力80PSを発生した。一方、上級グレードの1.5iには、PGM-FIを採用したEW型1,488ccの直列4気筒SOHCが搭載され、最高出力は110PSに達している。排気量の差は146ccにすぎないが、最高出力には30PS、率にして37.5%もの開きがあった。

この2種類のエンジンは、基本的に同じ寸法の車体へ収められていた。前輪中心より前方にはラジエーターやバンパーなどが配置され、後方にはエンジンや変速機の一部が入り込むため、前輪の位置はエンジンルーム全体の構成と密接に関係する。小さなエンジンベイの中で性能の異なる2種類のパワーユニットを成立させたことは、CR-Xの設計が単なる小型化にとどまらなかったことを示している。

1.3と1.5iの、重さと速さの比
1.3 車両重量760kg
1.3 最高出力80PSグロス
1.3 パワーウエイトレシオ9.5kg/PS760÷80
1.5i 車両重量815kg800〜815kgの上限値
1.5i 最高出力110PSグロス
1.5i パワーウエイトレシオ 815kg時7.41kg/PS815÷110
1.3と1.5iの、重さと速さの比1.3が9.50kg/PS、1.5iが7.41kg/PS。重さ55kgと出力30PSの交換で、1PSが背負う荷が2kg以上軽くなった。出典: Honda プレスインフォメーション br83-031、GAZOOカタログ、比は計算値

車両重量は1.3が760kg、1.5iは資料によって800〜815kgと割れており、両者の差は40〜55kgに収まる。エンジンや燃料供給装置、駆動系、装備などの違いが重量差に反映されていると考えられるが、1.5iでも800kg台前半という軽さを維持していた点は見逃せない。

最高出力を車両重量で割り戻したパワーウエイトレシオは、1.3が9.50kg/PS、1.5iが7.27〜7.41kg/PSとなる。幅があるのは車両重量が800〜815kgに割れているためで、重いほうの815kgを採れば7.41kg/PSになる。車体の基本寸法を変えることなく、パワーユニットの違いによってこれだけの性能差を生み出していたのであり、軽量な車体を基本に据えたCR-Xの性格がよく表れている。同じ車体に2種類のエンジンを載せ分けるという考え方は、このあとDOHCのSiが加わったときにも引き継がれていく。エンジンの進化そのものは、VOL.3で扱う。

同じ時代の2ドアは、どこに車軸を置いたか。

全長3,675mmに対してホイールベースは2,200mm、前後オーバーハングの合計は1,475mm。ここまで見てきた室内空間とエンジンルームの構成を踏まえると、CR-Xの短いホイールベースは、車体全体のパッケージングを考えるうえで重要な数字だったことがわかる。ただし、室内長やエンジンルームの寸法を全長から順番に差し引けばホイールベースが決まるわけではなく、実際にはそれぞれの空間が前後方向に重なり合いながら配置されている。

短いホイールベースは、一般に車体のヨー慣性モーメントを小さくしやすく、ステアリング操作に対する向きの変わりやすさに寄与する。軽い車体と組み合わせれば、その効果はさらに出やすい。一方で、路面の凹凸に対する前後輪の入力タイミングや、加減速時の荷重移動には、長い車体より気を遣うことになる。ホンダが採用したアンチダイブなどのジオメトリーは、こうした車体の動きを抑え込むための手当てだった。

同時代のクルマと比較すると、2,200mmという数字の特徴はさらに明確になる。1983年9月に登場したワンダーシビックの3ドアは2,380mmで、CR-Xより180mm長い。同じ時代のトヨタ カローラレビンAE86は2,400mm、日産 パルサーEXAは2,415mmと、いずれもCR-Xを上回るホイールベースを持っていた。

ここで見ておきたいのは、CR-Xの発表から約3か月後に登場したワンダーシビックとの関係である。発表の間隔は91日。ほぼ同じ時期に世へ出た2台で、車軸の置き方だけが180mm分かれた。室内の使い勝手や乗車人数を重視するシビックに対し、CR-Xは2人を中心とした使い方と軽快な走りを優先していた。何を数えるかの違いが、そのまま寸法に出ている。

ホンダ バラードスポーツCR-X2,200mm1983年7月ホンダ シビック3ドア(ワンダー)2,380mm1983年9月トヨタ カローラレビン(AE86)2,400mmトヨタ自動車75年史日産 パルサーEXA2,415mm日産ヘリテージコレクション
同時代のホイールベースCR-Xだけが2,200mm台。ほかの3台は2,380mmから2,415mmのあいだに並んでいる。出典: Honda プレスインフォメーション br83-031(1983年6月)、トヨタ自動車75年史、日産ヘリテージコレクション

なお、2,200mmという数字は、ミドシップスポーツカーのランチア ストラトスが持つ2,180mmにも近い。ただし、ストラトスはエンジンを座席の後方に配置するミドシップ車であり、FFのCR-Xとはパッケージングの考え方が根本的に異なる。同じように短いホイールベースであっても、その数字に至る理由は一様ではない。

短さの代償は、幅で払う。

CR-Xのホイールベースが2,200mmであるのに対し、トレッドは前1,400mm、後1,415mm。全幅1,625mmに対する割合は、それぞれ86.2%、87.1%となり、前後方向に短い車体に対して、左右方向には比較的広く車輪が配置されていたことがわかる。ホンダはコンパクトな車体を成立させながら、走行安定性や操縦性にも配慮した寸法を与えていた。

全幅から前トレッドを引くと225mm、左右に分ければ片側112.5mmである。トレッドは左右タイヤの接地中心間距離だから、この112.5mmがそのままタイヤと外板の隙間になるわけではなく、タイヤ幅やホイールオフセット、フェンダー形状にも左右される。それでも、全幅1,625mmの中へ前1,400mmのトレッドを収めたということは、左右方向の余白をここまで使い切ったということでもある。

ホンダ CR-X 全幅1,625mm基準ホンダ CR-X 前トレッド1,400mm全幅の86.2%ホンダ CR-X 後トレッド1,415mm全幅の87.1%
全幅のうち、トレッドが占める割合外板1,625mmに対して前後とも86%超。前後に詰めた車体に、左右は広く車輪が置かれている。出典: Honda プレスインフォメーション br83-031(1983年6月)、比率は計算値

ホイールベースをトレッドで割ると、前が1.57、後ろが1.55。前後に詰めた車体へ左右いっぱいまで車輪を置けば、四輪の配置はこの比に収まる。そこへ全高1,290mmが重なって、あの凝縮したスタイリングが立ち上がっていた。

前後のトレッドを比較すると、後ろが15mm広いことにも気づく。FF車では前輪が駆動と操舵の両方を受け持つため、前後のサスペンションには異なる役割が求められる。リアトレッドの広さも旋回時の挙動に関係する要素のひとつだが、この15mmだけで後輪の安定性や旋回特性が決まるわけではない。タイヤや重量配分、サスペンションジオメトリーを含めた全体の設定として捉える必要がある。

最低地上高は1.3が165mm、1.5iが160mmで、その差は5mm。タイヤが185/70SR13と185/60R14で異なり、外径の差が床下の余裕としてそのまま現れている。全高1,290mmという低さを持ちながら、路面とのクリアランスは日常使用に要る量が残されていた。CR-Xの低いプロポーションは、単に車高を下げるだけでは成立せず、ボディ形状や床下構造、足まわりの配置を総合的に考えることで実現されていたのである。

ホイールベースとトレッドの比
ホイールベース÷前トレッド1.57倍2,200÷1,400
ホイールベース÷後トレッド1.55倍2,200÷1,415
前後トレッド差15mm後が広い
ホイールベース÷全長59.9%2,200÷3,675
ホイールベースとトレッドの比前1.57倍、後1.55倍。上から見れば正方形に近い四輪の置き方になる。ホイールベースを詰めた車体に、トレッドは全幅の86%まで広げられている。出典: Honda プレスインフォメーション br83-031 の数値からの計算値

しかも、この足まわりはグレードで一律ではなかった。1.3にはハイキャスタートレールが設定され、キャスター角は2°25′、キャスタートレールは13mm。タイヤも車両重量も違えば、前輪の据わり方まで変える——同じ車体を名乗りながら、細部は書き分けられていた。

駆動系にも、一体中空ドライブシャフトやトリポート型等速ジョイントなど、軽量化と機能性を両立するための技術が採用されていた。CR-Xの小ささは外から見える寸法だけでなく、こうした目立たない部品の構成によっても支えられていたのである。

ばねを置く場所が、もう無い。

全高1,290mmという低いボディを実現するうえで、ホンダが工夫を凝らした部分のひとつがサスペンションだった。一般的なマクファーソン・ストラット式では、ダンパーの周囲にコイルスプリングを配置する構成が多く、その取り付け位置やストラットタワーの高さが、エンジンルームやボンネットの形状に影響する。CR-Xでは、こうした空間上の制約に対応するため、フロントにトーションバーを用いた独自の構成が採用された。

トーションバーは、棒状のばねをねじることで反力を発生させる仕組みであり、コイルスプリングとは異なる場所にばね要素を配置できる。CR-Xのフロントサスペンションは、マクファーソン・ストラットを基本としながら、ばねの役割をトーションバーに担わせることで、ストラットまわりの構成をコンパクトにまとめていた。これによってエンジンルーム上部の空間を確保しやすくなり、低いボンネットの実現にもつながっている。

ばねをダンパーの周囲から分離することには、レイアウト上の利点がある一方、ばね下重量や路面追従性への影響は、トーションバーの取り付け方やサスペンション全体の構造によって異なる。重要なのは、単純にコイルスプリングをなくしたことではなく、限られた空間の中で必要なばね機能を別の位置へ移したという設計上の発想である。

リアにはトレーリングリンク式ビームを採用した。この形式は構造を比較的コンパクトにまとめやすく、荷室や後席まわりの空間確保にも適している。CR-Xの場合、後席は補助的な位置づけだったものの、その後方には荷室があり、車体後部全体の高さや容積を考えるうえで、リアサスペンションの占有空間は重要な要素だった。

SPORTECの正式名称
フロント形式:マクファーソン・ストラット(トーションバースプリング)SPACE ORIENTED REACTION TUBE TORSION-BAR TECHNOLOGY
リア形式:トレーリングリンク式ビーム(車軸式)SPACE ORIENTED RESPONSIVE TRAILING-LINK TECHNOLOGY
SPORTECの正式名称SPORTECという呼び名のもとで、前後それぞれに別の正式名称が与えられていた。リアのRESPONSIVEは、応答性のほうを指している。出典: Honda 報道発表資料(1983年6月23日)、プレスインフォメーション br83-022

ホンダは、こうした前後のサスペンション技術を「SPORTEC」と呼んでいた。フロントの正式名称は「SPACE ORIENTED REACTION TUBE TORSION-BAR TECHNOLOGY」、リアは「SPACE ORIENTED RESPONSIVE TRAILING-LINK TECHNOLOGY」。いずれも冒頭に置かれているのはSPORTではなくSPACEであり、走行性能だけでなく、空間効率を重視した技術であることが名称にも表れている。

さらに、フロントにはアンチダイブ、ネガティブオフセット、ニュートラルステアなどのジオメトリーが組み合わされていた。ネガティブオフセットは、左右で制動力や路面抵抗が異なる場合に、操舵系へ伝わる力の影響を抑える方向に働く設計であり、直進安定性に関係する。CR-Xの足まわりには、低い車体を成立させるための空間設計と、軽快で安定した走りを実現するための技術が同時に盛り込まれていた。

MM思想とは、引き算につけた名前だった。

ホンダのMM思想は、「マン・マキシマム、メカ・ミニマム」の略として知られている。人のための空間を最大限に確保し、機械が占める空間をできるだけ小さくするという考え方で、一般には室内の広い乗用車を実現するための思想として説明されることが多い。しかし、1983年のCR-Xを見ると、この考え方が必ずしも室内空間の拡大だけを意味するものではなかったことがわかる。

当時の報道発表資料では、エンジンやサスペンションなどのメカニズム部分を小型、高密度で高性能な設計にするという方針が示されていた。CR-Xでは、機械部分をコンパクトにまとめることで、広い後席をつくるのではなく、全長3,675mm、全高1,290mmという小さく低い車体を成立させている。2人を中心とした室内空間を確保しながら、スポーツカーとしてのスタイリングと走行性能を実現することが、その目的だった。

ホンダ バラードスポーツCR-X 全高1,290mm1983年ホンダ Nシリーズ 低床化量70mm2012年・従来比
同じMM思想が、逆方向に働いた1983年のCR-Xは全高を1,290mmまで下げ、2012年のNシリーズはプラットフォームを従来比70mm下げて室内を広げた。出典: Honda プレスインフォメーション br83-031、Honda Nシリーズ ファクトブック(2012年7月)

同じMM思想でも、2012年のNシリーズでは異なる方向への展開が見られる。プラットフォームの低床化によって室内空間を拡大し、軽自動車の限られた寸法をより有効に使うことが目指された。一方、CR-Xでは、機械部分の小型化を低い車体とコンパクトなパッケージングに結びつけていた。車種によって求められる価値が違えば、同じ思想から生まれるクルマの形も変わってくる。

バラードスポーツCR-X 報道発表1983年6月23日 発表発売(ベルノ店)1983年7月1日 発売シビック・バラードシリーズ発表1983年9月22日 発表(CR-Xの91日後)1.6 DOHC搭載のSi追加1984年 追加(E-AS型)2代目CR-X 発表1987年9月9日 発表(WB2,300mm)
CR-Xをめぐる日付発表から3か月後にワンダーシビックが出て、約4年2か月後にホイールベース2,300mmの2代目へ移った。出典: Honda 報道発表資料(1983年6月23日/1983年9月22日)、Honda プレスルーム(1987年9月9日)

MM思想という言葉が室内の広さと結びつけて語られるようになったのは、Nシリーズ以降のことである。1983年のCR-Xでは、同じ思想が低く小さな車体のほうへ働いていた。人のための空間を最大にするという原則は変わらないまま、何を人のための空間と呼ぶかが、車種によって違っていたのである。

ホイールベース2,200mmも、人のための空間を何に使うかというこの判断の下で選ばれた寸法だった。

1987年9月9日に発表された2代目CR-Xでは、ホイールベースが100mm延長され、2,300mmとなった。初代の2,200mmは絶対的な目標ではなく、その世代に求められた性能と設計条件のもとで選ばれた寸法だったことになる。

ホンダ バラードスポーツCR-X 主要諸元(1983年7月発売時)
全長3,675mm
全幅1,625mm
全高1,290mm
ホイールベース2,200mm全グレード共通
トレッド(前)1,400mm
トレッド(後)1,415mm前より15mm広い
室内長1,510mm
室内幅1,340mm
室内高1,075mm
最低地上高(1.3)165mm
最低地上高(1.5i)160mm1.3より5mm低い
車両重量(1.3)760kg
車両重量(1.5i)815kg800〜815kgに資料が割れる
乗車定員4名登録上
総排気量(1.3/EV型)1,342cc直4 SOHC
総排気量(1.5i/EW型)1,488cc直4 SOHC
最高出力(1.3)80PSグロス
最高出力(1.5i)110PSグロス
パワーウエイトレシオ(1.3)9.5kg/PS計算値
パワーウエイトレシオ(1.5i) 815kg時7.41kg/PS計算値・815kg時
ホイールベース/全長比59.9%計算値
室内長/全長比41.1%計算値
ホンダ バラードスポーツCR-X 主要諸元(1983年7月発売時)型式は1.3がE-AE、1.5iがE-AF。1.6 DOHCを積むE-AS型は1984年の追加にあたる。出典: Honda プレスインフォメーション br83-031(1983年6月)。1.3の出力・排気量はFastestLaps、1.5iの車両重量はGAZOOカタログ。比率は計算値

初代の短さをそのまま受け継ぐのではなく、次の世代では別の答えを出した。その変化もまた、CR-Xというクルマの設計思想を理解するための重要な手がかりになる。

割り切ったものと、守ったもの。

ホンダがこの車で割り切ったものを並べると、後席の足元、前後オーバーハングの余裕、そしてばねを置く場所の三つになる。後席は1マイルリアシートになり、オーバーハングは前後を合わせて1,475mmまで削られ、フロントのコイルスプリングはトーションバーに置き換わった。

一方で、割り切らなかったものもある。トレッドは前1,400mm、後1,415mm。全幅1,625mmの86%以上を車輪に使い、前後を詰めたぶんの安定を左右方向で買い戻している。小さくすることと、よく走ることは、この車では別々の操作だった。

後席に人を乗せるつもりなら、この車は選ばれなかった。1マイルという距離を後席に割り当てたからこそ、全長3,675mmが成立している。初代CR-Xの短さは、速く走るために削った結果ではなく、2人で乗ると先に決めたことの結果だった。

2,200mmが残したもの。

ホンダがCR-Xで決めたのは、長さではなく順番だった。2人ぶんの部屋と、横置き1.5Lのエンジンベイ、そして衝突時に潰れてもらう余地。この三つを置いたあとに残った寸法が、そのままホイールベースになっている。だから2,200mmは目標として掲げた数字ではなく、引き算の答えとして読める。

低さのほうも同じで、全高1,290mmを成立させるためにフロントのコイルは抜かれ、ばねはトーションバーへ移った。サスペンションに付いた名前がSPORTではなくSPACEから始まるのは、その順番を言っている。4年後の2代目がホイールベースを2,300mmへ伸ばしたのは、短さそのものが目的ではなかったことの裏返しでもある。

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この記事の夢中ポイント

  • 全高1,290mmと室内高1,075mmの差は215mm。測る基準が違うので床下の厚みそのものではないが、この引き算の小ささが、フロントをトーションバーにしリアをビームにした理由を説明している。
  • トレッドは後ろが15mm広い(前1,400/後1,415mm)。FFで前に荷重が寄る車体で、後輪側のトレッドだけを広く取った設定になっている。
  • サスペンション名称SPORTECの正式展開は、頭がSPORTではなくSPACE。SPACE ORIENTED REACTION TUBE TORSION-BAR TECHNOLOGY。名前が設計の順序を先に言っている。
  • 2代目は1987年9月9日発表でホイールベースを100mm延長し2,300mmにした。短さが目的だったなら捨てる理由がない、という読み方ができる。

最終更新 2026年10月28日

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  • トミカプレミアム No.16 Honda バラードスポーツ CR-X

    机の上でプロポーションを確認する用途なら、この大きさで足りる。真横から見たときの軸間の短さは出ている。

    シリーズ: トミカプレミアム No.16・車種: バラードスポーツCR-X・形態: ダイキャストミニカー・流通: 生産終了品のため入手性は流動的(2026年10月8日時点)

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  • タミヤ 1/24 スポーツカーシリーズ No.45 Honda バラード スポーツ 無限 CR-X PRO.

    品番24045。1/24スケールの完成サイズで、実車では意識しにくい前後車軸の近さを机の上に置ける。

    品番: 24045・スケール: 1/24・シリーズ: スポーツカーシリーズ・仕様: 無限CR-X PRO.(レース仕様)・ホイールベース換算: 約91.7mm

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  • イグニッションモデル 1/18 Honda BALLADE SPORTS CR-X Si (E-AS) White

    1/18ならホイールベース換算122.2mm、全高換算71.7mm。前後トレッド差15mmに相当する造形も追える。

    品番: IG1629・スケール: 1/18・車種: バラードスポーツCR-X Si(E-AS)・色: ホワイト・ホイールベース換算: 約122.2mm

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本記事は、メーカー公式資料、公的統計・資料、当時のカタログ、専門媒体等を参照し、DUAD編集部が内容を確認・構成しています。ここに挙げるのは、本文の数値・年月日の根拠として実際に使った資料です。

百科事典・個人の記録1

事実に辿り着く入口として参照したもの。数値や年月日の根拠は、できるかぎり上の資料で取り直しています。

最終閲覧日:2025年1月20日

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