あの低いボンネットは、どう実現したのか。
初代バラードスポーツCR-Xの全高は1,290mm。1983年9月に発表された3代目シビックの3ドアハッチバックが1,340mmだったことを考えると、基本コンポーネンツに共通点を持つ2台の間には、50mmの高さの違いがあった。わずか5cmとはいえ、ルーフからボンネットへ続く車体全体のプロポーションに与える影響は大きく、CR-Xはシビックとは明らかに異なる、低く構えたスポーツカーの姿を手に入れていた。
なかでも特徴的なのが、前方へ向かって低くなるノーズの造形である。ホンダはエンジンの搭載高さやフロントサスペンションの構成を工夫することで低いボンネットを実現したが、その形状を成立させるうえでは、ヘッドライトの配置も重要な課題だった。一般的な固定式ヘッドライトでは、灯体の高さや取り付け位置がフロントデザインを制約するため、CR-Xにはセミリトラクタブル式ヘッドライトが採用された。
この方式では、ヘッドライト本体を大きく持ち上げるのではなく、通常は灯体の前面を覆っているフラップを開くことで光を照射する。そのフラップに使用されたのが、ホンダの新素材H.P.ALLOYだった。樹脂は射出成形によって複雑な三次元形状をつくることができ、裏面に補強リブを設けるなど、必要な部分に強度を持たせやすい。薄く見えるフラップの形と、開閉を受けとめる強さは、この成形のしかたの上で両立している。
同じことは、フロントマスクやフロントフェンダーにもいえる。鋼板のプレス加工でも複雑な形状は実現できるが、深い凹凸や細かな造形には金型構造や加工工程の制約が伴う。一方、樹脂の射出成形では、金型の構成を工夫することで、複雑な曲面や補強形状を一体的につくることが可能になる。ホンダが樹脂を採用した理由には、軽量化だけでなく、従来の鋼板とは異なる造形の可能性を広げる狙いもあった。
なお、初代CR-Xは1985年のマイナーチェンジでフロントデザインが変更され、セミリトラクタブル式から固定式の異形ヘッドライトへと移行している。前期型と後期型では顔つきが大きく異なるが、発売時のフラップ式ヘッドライトは、初代CR-Xが新素材と新しいデザインの両方に挑戦していたことを象徴する装備だった。
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樹脂製外板、H.P.ALLOY と H.P.BLEND。
初代CR-Xのボディは、すべてが樹脂でつくられていたわけではない。ルーフやドア本体、ピラー、リアクォーターなどは鋼板を使用しながら、フロントマスク、ヘッドライト・フラップ、フロントフェンダー、ドアロア・ガーニッシュ、サイドシル・ガーニッシュにH.P.ALLOYを採用していた。さらに前後のバンパーにはH.P.BLENDが使われ、車体の下半分を中心に樹脂製部品が配置されていたのである。
| フロントマスク | H.P.ALLOY | |
|---|---|---|
| ヘッドライト・フラップ | H.P.ALLOY | |
| フロントフェンダー | H.P.ALLOY/樹脂外板で最大面積 | |
| ドアロア・ガーニッシュ | H.P.ALLOY | |
| サイドシル・ガーニッシュ | H.P.ALLOY | |
| フロントバンパー | H.P.BLEND | |
| リアバンパー | H.P.BLEND | |
| ドア本体 | 鋼板 | |
| ルーフ | 鋼板/電動サンルーフ機構を受ける | |
| ピラー | 鋼板 | |
| リアクォーター | 鋼板 | |
ここで重要なのは、樹脂を一種類に統一せず、部品の役割によって異なる材料を使い分けていた点だ。H.P.ALLOYは「HONDA POLYMER ALLOY」の略で、ABS樹脂とポリカーボネートに耐衝撃性を高める成分を組み合わせたポリマーアロイである。ホンダは、鋼板に近い感触や平滑な塗装面、軽量性、耐久性などを特徴として挙げており、外観品質を求められるボディパネルへの採用を可能にしていた。
一方、バンパーに使用されたH.P.BLENDは「HONDA POLYMER BLEND」の略で、高い耐衝撃性と耐候性を持つ変性ポリプロピレンを基本とする材料だった。バンパーには外観の美しさだけでなく、軽い接触によって簡単に破損したり、変形したままになったりしないことが求められる。ホンダは、この素材によって防錆性や耐チッピング性、メンテナンス性の向上も図っていた。
ちなみに、1983年6月23日付のホンダ公式資料でも、樹脂を採用した部位の記載には違いがある。プレスインフォメーションにはサイドシル・ガーニッシュが含まれているが、同日のニュースリリースではその名称が挙げられていない。採用部品そのものが違っていたというより、資料ごとに説明する範囲が違っていたとみられる。
3mm動く素材を、鋼板と同じチリで組む。
樹脂製外板を量産車に採用する際、避けて通れない課題のひとつが温度による寸法変化である。鋼板も温度が上がれば膨張するが、一般的な樹脂材料はそれより大きく伸び縮みするため、両者を隣り合わせに配置する場合には、その違いを考慮しなければならない。
たとえば、鋼の線膨張係数を約12×10⁻⁶/K、樹脂を約85×10⁻⁶/Kと仮定すると、長さ1mの部材が40℃の温度変化を受けた場合、鋼板は約0.48mm、樹脂は約3.4mm伸びる計算になる。両者の差は約2.9mmに達し、真夏の炎天下と冬の朝のように温度条件が大きく変わる環境では、こうした素材ごとの性質が部品の取り付け方や隙間の設計に影響する。
TIPS
磁石を1個、ポケットに入れていく。
初代CR-Xのフロントフェンダーが樹脂製かどうかは、磁石を使えば数秒で確かめられる。H.P.ALLOY製のフェンダーには付かず、鋼板製のドア本体には付く。ドアとフェンダーの境目を上から下へ磁石を滑らせれば、どこで吸着が切れるかが分かる。その位置が、1983年にホンダの引いた線である。ただし、補修歴のある個体では板金部品に換わっていることもあるので、付いた・付かないは一枚ごとに見ていきたい。
実際の寸法変化は材料の配合や部品の形状、固定方法によって変わる。それでも、桁の違う伸び縮みを前提に設計する必要があったことは変わらない。取り付け位置と固定方法で動く量を逃がし、鋼板製部品との干渉や変形を防いだうえで、塗装後の色や艶、表面の平滑さまで鋼板側にそろえる。素材ごとの違いは、外から見えないところで吸収するしかなかった。
ホンダがH.P.ALLOYの特徴として挙げたのは、ガラス繊維による補強を必要としない剛性、平滑な表面、そして柔軟性の高い塗料との組み合わせだった。いずれも、鋼板製パネルと並べたときに違和感のない面と塗装をつくるための条件である。樹脂製外板は、軽くて錆びないだけでは商品にならなかった。
塗装工程についても、樹脂には鋼板とは異なる条件が必要になる。一般的な自動車用鋼板の焼付塗装では高温の工程が用いられるが、樹脂製部品を同じ条件で処理できるかどうかは、材料の耐熱性や塗料の種類によって変わる。鋼板と同じ色と艶に仕上げながら、樹脂には樹脂の塗装条件が用意されていたのである。
では、軽量化の効果はどれほどだったのか。ホンダが公表したH.P.ALLOYの比重は1.1で、鋼板の約7.85と比べれば、素材そのものの密度は約7分の1になる。ただし、外板として必要な強度や剛性を確保するには、樹脂製部品の厚みや補強形状も考慮しなければならず、密度の差がそのまま部品重量の差になるわけではない。
仮に鋼板の厚みを0.75mm、樹脂を3.5mmとすれば、同じ面積の平板として比較した重量は、樹脂が鋼板の約65%となる。密度の比は7分の1でも、厚みで戻るぶんがこれだけある。部品ごとの形状や補強の入り方によっても、この比率は変わってくる。
つまり、樹脂化で効いていたのは軽さだけではない。複雑な形状をつくりやすく、錆びず、飛び石などによる塗装面へのダメージにも配慮できるという利点を活かしたうえで、鋼板と並べたときの外観品質と耐久性を同時に満たすこと。それが、初代CR-Xの外板に課された素材選択の条件だった。
フラッシュサーフェスボディと空力設計。
1980年代初頭、自動車の空力性能を高めるうえで重要なテーマになっていたのが、ボディ表面の段差や突起を減らすフラッシュサーフェス化だった。窓ガラスとボディの境界、ドアハンドル、モール、ワイパーなど、走行風に触れる部分の形状を整えることで、空気抵抗や風切り音の低減を図る考え方である。
初代CR-Xもこの流れの中にあり、ホンダはその空力設計を「TOTAL AERODYNAMICS」と呼んでいた。車体を個別の面の集合としてではなく、ひとつのまとまった形状として捉え、フロントからリアまで空気が滑らかに流れるボディを目指していたのである。
その考え方は、細部の構成にも表れている。フロント、リア、クォーターの各ガラスには接着式のフラッシュマウント構造を採用し、ボディとの段差を約3mmに抑えた。サイドにはサッシュレスドアを用い、ドアハンドルも外板面からの突出を抑えたインテグラル・ドアハンドルとしている。さらに、リアクォーターには三次元曲面を持つベンドガラスを組み合わせ、側面から後方へ続くラインの連続性を高めていた。
こうした工夫は、どれか一か所で空気抵抗を大幅に減らすものではない。実際の改善量は部品の位置や周囲の形状によって変わるが、小さな段差や突起の影響を積み重ねて抑えることが、車体全体の空力性能につながっていく。0.07という差は、そうやって積み上げた側にだけ出てくる数字である。
リアの造形も、CR-Xを特徴づける部分だった。ホンダが「クラウチング・ヒップ」と呼んだ車体後部は、ルーフから続くラインを短いリアエンドで切り落とすように構成され、低いノーズと対照的な形をつくっている。バンパーと一体化したエアロスカートなども含め、後方の気流や車体の安定性に配慮したデザインが採用されていた。
また、1983年は日本国内でドアミラーが認可され、フェンダーミラーからの移行が進み始めた時期でもある。ミラーの取り付け位置や形状も空力性能に影響するため、ボディ全体を滑らかに整えるという考え方は、こうした装備の変化とも無関係ではなかった。
ここで樹脂製外板の話に戻ると、H.P.ALLOYの採用によって複雑な三次元形状を成形しやすくなったことは、フロントまわりのデザインを実現するうえで利点となった。ただし、Cd値0.33は樹脂だけの成果ではない。低い車体、ガラスやドアまわりの処理、前後の形状が一つの形にまとまったときに、はじめて出た値である。
Cd値0.33、Cd×A値0.56の意味。
初代CR-Xの空力性能を示す数字として知られているのが、Cd値0.33である。1983年当時の国産乗用車として優れた値だったが、ホンダの資料にはもうひとつ、Cd×A値0.56m²という数字が記されている。実際の走行時に空気抵抗がどれほど発生するかを考えるうえでは、この数値も重要になる。
| Cd値 | 0.33 | 公称値 |
|---|---|---|
| Cd×A値 | 0.56m² | 公称値 |
| 前面投影面積A(逆算) | 1.7m² | 0.56÷0.33/推定 |
| 全幅 | 1,625mm | 公称値 |
| 全高 | 1,290mm | 公称値 |
| 全幅×全高の矩形面積 | 2.1m² | 推定 |
| 充填率 | 0.81 | 1.70÷2.096/推定 |
Cdは車体形状による空気抵抗の大きさを表す係数で、車体そのものの大きさは含まれていない。一方、Aは前面投影面積を意味し、CdとAを掛け合わせることで、空気抵抗に関係する車体の形状と大きさを合わせて評価できる。CR-Xの場合、0.56を0.33で割ると、前面投影面積は約1.70m²となる。
全幅1,625mmと全高1,290mmを掛け合わせた矩形面積は約2.10m²だから、実際の前面投影面積はその約81%に相当する。車体の角が丸められ、ボンネットやルーフ、ガラスなどが曲面で構成されていることを考えれば、外寸の矩形より前面投影面積が小さくなるのは自然なことだ。
では、Cd値を変えずに前面投影面積だけが大きくなったら、どうなるか。仮にAが2.00m²なら、Cd×Aは0.66m²。公称値0.56m²に対して約18%増える。
空気密度を1.2kg/m³、速度を100km/hとして計算すると、Cd×Aが0.56m²の場合の空気抵抗は約259N、0.66m²の場合は約306Nとなり、その差は約47Nに達する。これを走行時の空気抵抗に対抗するための出力に換算すれば、約1.3kW、馬力では約1.8PSの違いになる。
1.8PSという数字だけを見れば、小さく思えるかもしれない。だが、同じ速度で走り続けるために空気へ渡しつづける出力が、約18%変わるということでもある。最高出力80PSの1.3から始まるCR-Xでは、その1.8PSを空気に渡さずに済むかどうかが、高速走行時の余力と燃費に返ってきた。
| 空気抵抗係数 Cd | 0.33 | 1983年 |
|---|---|---|
| Cd×A | 0.56m² | 1983年 |
| 揚力係数 CL | 0.2 | 1983年 |
| ヨーイングモーメント係数 CYM | 0.03 | ヨーアングル6度/1983年 |
もちろん、実際の走行には転がり抵抗や駆動系の損失なども加わるため、空気抵抗の差がそのまま燃費や最高速度の差になるわけではない。それでも、Cd値だけでなく前面投影面積を小さくすることが、限られたエンジン出力を有効に使うための方法だったことは理解できる。
ホンダが公開した空力諸元には、Cd値0.33とCd×A値0.56m²に加え、揚力係数CL0.20、ヨーアングル6度におけるヨーイングモーメント係数CYM0.03も記されていた。空気抵抗を小さくするだけでなく、走行中に車体へ作用する揚力や、横風を受けたときの挙動まで考慮していたことがわかる。低く構えた車体は、見た目の印象だけでなく、走行中の安定性にも関わっていたのである。
DUAD SELECT
Cd×Aを自分で計算できるようになると。
Cd0.33とCd×A0.56m²の関係は、割り算ひとつで前面投影面積が出る程度の話だが、揚力係数や横風時のモーメントまで含めて読もうとすると、基礎の一冊があったほうが早い。自分の乗っている車のカタログを、違う目で見られるようになる。
こうして見ると、初代CR-Xの低いボンネットや全高1,290mmという寸法は、スタイリングだけのために選ばれたものではなかった。車体を小さく、低くまとめながら空気の流れを整えるという設計の積み重ねが、Cd×A値0.56m²に結びついていたのである。
ホンダが世界初と案内した、電動アウタースライドサンルーフ。
全高1,290mmという低い車体に、開放感を与えるサンルーフを組み合わせることは、室内空間の確保という点で難しい課題だった。一般的なインナースライド式では、開いたルーフパネルを屋根の内側へ収納するため、その機構が頭上空間を圧迫する場合がある。もともと低いルーフを持つCR-Xでは、開閉機構をどこに収めるかが重要になった。
TIPS
ルーフ・ラム圧ベンチレーション。
この装置が効いているかどうかは、走りながら確かめられる。窓を全部閉め、送風を止めた状態で天井の吹き出しに手の甲を当て、60km/hから100km/hまで速度を上げてみる。走行風の圧力は速度の2乗で効くため、空気密度を1.2kg/m³として計算すると60km/hで約167Pa、80km/hで約296Pa、100km/hでは約463Pa。速度が1.67倍になるだけで、使える圧力は約2.8倍になる。手に当たる風が速度とともに増えていけば、ダクトは詰まっていない。
そこでホンダが採用したのが、ルーフパネルを屋根の外側へスライドさせる電動アウタースライドサンルーフだった。開いたパネルを車室内側へ収納する必要がないため、低いルーフラインを保ちながら、頭上空間への影響を抑えやすい方式である。ホンダは1983年の発売時、この電動アウタースライド方式を世界初の装備として紹介していた。
低いボディにサンルーフを設けるという、一見すると相反する要求を、開閉方式そのものを工夫することで両立させた点が興味深い。単に装備を追加するのではなく、車体の基本的なデザインを崩さない方法を選んでいたのである。
さらにCR-Xには、ルーフ・ラム圧ベンチレーションという独特の換気装置も用意されていた。これは走行中に発生する空気の圧力を利用して外気を室内へ取り入れる仕組みで、天井から新鮮な空気を送り込むことができる。ホンダは量産乗用車として世界初の装備と案内しており、風量の2段切り替えや風向の調節にも対応していた。
この装置の特徴は、サンルーフのように大きく屋根を開けなくても、走行風を利用して自然換気ができることにある。ただし、動圧の大きさがそのまま風量になるわけではない。実際に室内へ入る量を決めるのは、取り入れ口やダクトの断面と、室内外の圧力差のほうである。走行風の圧力は、あくまでその前提として用意されるものだった。
低いルーフを持つスポーツカーでありながら、開放感や快適性を犠牲にしない。電動アウタースライドサンルーフとルーフ・ラム圧ベンチレーションは、どちらも空間の制約を工夫によって解決しようとした装備だった。
2人のためのコックピットと室内装備。
初代バラードスポーツCR-Xは、乗車定員こそ4名だったが、室内の設計は前席の2人を中心に考えられていた。後席には短距離の補助的な乗車を想定した「1マイルリアシート」が用意され、必要に応じてシートバックを倒せば、荷室を広く使うこともできた。2名乗車時の荷室容量は310Lで、全長3,675mmというコンパクトな車体ながら、日常の荷物を積むための実用性も備えていた。
室内に目を向けると、低いボンネットによって得られた前方視界を活かすため、インストルメントパネルには25度の傾斜を持つスラントデザインが採用されている。メーターバイザーを低くまとめ、ドアやサイドライニングへ連続するラップラウンド形状とすることで、運転席を中心とした一体感と開放感を両立させていた。
この空間づくりには、ボディ構造そのものを利用する工夫もあった。ホンダは空調用ダクトをボディ内部へ組み込む構造を採用し、インストルメントパネルをエンジン側へ寄せることで、乗員のための空間を広げている。限られた車体寸法の中で、装備を単純に小さくするだけでなく、その配置や構造まで見直していたのである。
装備面でも、CR-Xには当時のホンダらしい先進性が見られる。1.5iのサンルーフ仕様車にはカラード液晶デジタルメーターが採用され、速度は0〜180km/hを1km/h刻みで表示。オレンジ色の数字によるスピード表示に加え、タコメーターにはエンジンのトルク曲線をイメージしたグラフィック式のゾーン表示が用いられていた。
TIPS
リアウインドウの段と、直後の死角。
初代CR-Xのリアエンドには、上側のリアガラスとは別に、後方視界を補う下側のガラスが設けられていた。中古車を見るときは、この下側のガラスを外から覗き込むとよい。室内側に荷物を積んだままだと下側は完全にふさがれるため、荷室の使い方しだいで後方の見え方が変わる。運転席に座って振り返り、上下どちらのガラスで何が見えているかを分けて確かめておくと、駐車時にどちらを頼るかが決まる。
水温計や燃料計、警告表示も横一列に配置され、運転者が必要な情報を素早く把握できるように考えられている。さらに、クラス初とされたタッチスイッチ式ヒーターモードコントロールでは、軽く触れるだけで吹き出しモードや内外気の切り替えが可能だった。操作パネルはメーターバイザー内に配置され、運転姿勢を大きく変えずに扱えるよう配慮されていた。
1.5iのサンルーフ仕様車には、タイムコントロールモジュール付エレクトロニック・ナビゲータも用意された。現在のカーナビゲーションとは異なり、消費燃料や平均燃費、平均車速、走行距離などを表示するドライブ情報システムで、残燃料の表示やワイパーの時間制御など、複数の機能をひとつの装置にまとめていた。
ステアリングには、縦360mm、横370mmのオーバルシェイプを採用。小径で太いグリップに加え、5mmのセンターオフセットを設けることで、低い着座位置でも乗り降りしやすい形状としていた。バケットシートも、サイドサポートを高めながら、15mmピッチの前後スライドや2度刻みのリクライニング調整に対応しており、運転姿勢を細かく合わせられるようになっていた。
25度に寝かせたインストルメントパネル、メーターバイザーの中に収めた操作パネル、縦360mm・横370mmのオーバルステアリング。寸法はどれも、低く座った2人の手と目が届く範囲から逆算されている。
鋼板と樹脂の、合わせ目。
樹脂を選ぶということは、工程を一つ増やすということでもある。鋼板のプレスラインとは別に射出成形の型を起こし、塗装の条件を分け、組み付けのときには温度による伸び縮みの差を見込んでおく。それだけの手間をかけてまで、ホンダはフロントフェンダーを鋼板から外した。
理由は、顔つきのほうにあった。前方へ向かって低くなるノーズと、フラップを開いて光を通すセミリトラクタブル式ヘッドライト。この形を鋼板のプレスで出そうとすれば、金型の構造と加工工程が先に音を上げる。樹脂は軽くするための材料ではなく、その形を作るための材料として選ばれている。
だから線引きは、形が効く場所で止まっている。ルーフもドア本体もピラーも鋼板のまま残され、車体の上半分には樹脂を使う理由がなかった。
樹脂と鋼板を同じ色と艶で突き合わせるという条件は、合格したときにだけ誰にも気づかれない種類の条件である。40年以上を経た個体で、その合わせ目がまだ揃っている。
CR-Xが残した条件。
樹脂にしたのは外板の7部位で、車体の下半分に集まっている。外板用のH.P.ALLOYとバンパー用のH.P.BLENDを使い分け、ルーフやドア本体、ピラーは鋼板のまま残している。比重で見れば樹脂は1.1、鋼板は約7.85だが、外板に要る強度を厚みで補うぶん、部品の重さはその比どおりには減らない。
効いてきたのは、むしろ隣り合わせにする条件のほうだった。一般物性で試算すると、1m・40℃の温度変化で鋼板は0.48mm、樹脂は3.4mm伸びる。その差を抱えたまま、樹脂のフェンダーと鋼板のドアを同じチリで突き合わせ、同じ色と艶に塗り上げなければならない。
ホンダがH.P.ALLOYの特徴として平滑な表面と柔軟性の高い塗料を挙げていたのは、この条件への答えである。低いノーズと全高1,290mmが前面投影面積約1.70m²を作り、Cd0.33と掛け合わさってCd×A0.56m²になった。Aが2.00m²なら同じCdでも0.66m²で、抵抗は約18%増える。
H.P.ALLOYもH.P.BLENDも、頭のH.Pはハイパフォーマンスではない。HONDA POLYMER——社名をそのまま材料の名前に入れていたことが、1983年のホンダが新素材をどこに置いていたかを示している。

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