第1弾の箱には、戦車が入っていない。
ミリタリーミニチュアシリーズの品番は35001から始まるが、中身はドイツ戦車兵セットの人形3体で、公式製品ページに記載された構成に車体のパーツは含まれない。発売時期は1968年9月とされる。
続く35002のドイツ歩兵セットは人形4体で、立ち上がりの2箱はどちらも戦車が入っていない。「ミリタリーミニチュア」という名は、戦車のシリーズ名としてではなく、戦車のそばに置くものの名として始まっている。
この構成を「走るモーターライズ戦車に添えるアクセサリーとして企画されたもの」と説明する記述は広く流布しているが、1968年当時のカタログや広告でその企画意図を確認する作業は、この記事の時点では済んでいない。確認できるのは、第1弾の箱に戦車が入っていないという構成の事実だけであり、企画意図の推測と構成の事実は分けて置いておく。
35002は2019年3月の再販時に550円(税込・本体500円)。半世紀を越えて同じ番号の箱が店頭に並ぶというのは、縮尺が生き残ったということでもある。
記憶のほうは正確だ。棚の高さ、箱の側面に小さく刷られた数字、レジ横で数えた小銭。だが記憶は縮尺を検証してくれないので、ここから先は公称値と品番で進める。
1/35は、戦車の寸法から出てきた数字ではない。
縮尺の分母には扱いやすい数と扱いにくい数があり、35は明らかに後者で、実物の寸法を暗算で割り出すには向かない。にもかかわらず、この分母がミリタリーモデルの縮尺として定着した。
流布している説明はこうだ。1/35は戦車の実寸から決めた縮尺ではなく、モーターと乾電池とギヤボックスを車体内に収める寸法から逆算した結果に近い数字である、というもの。田宮俊作『田宮模型の仕事』(文春文庫 た45-1)にも、縮尺決定の経緯が語られている。
ただし傍証は現行製品から取れる。タミヤ 1/35戦車シリーズのパンサーG初期型 シングルモーターライズ仕様(30055)は電源に単4電池2本を使い、公称の全長は257mm、全幅は96.0mm。この寸法の車体に、モーター、ギヤボックス、電池2本、スイッチが同居している。
もっとも、この傍証には時差がある。30055の発売は2012年10月27日で、ここで確認できるのは、走行機構を前提とした車体寸法が現行品として残っているという事実であって、1960年代の設計そのものではない。電源の単4電池2本も別売とされており、車体に確保されているのは特定の電源に合わせた容積ではなく、市販の規格品が入るだけの容積である。
同じ車種のディスプレイキット、ミリタリーミニチュアシリーズのパンサーG後期型(35176)は全長257mm、全幅96.2mmで、全長は同一のまま、全幅の公称値だけが0.2mm違う。
| ドイツ パンサー中戦車(No.35065) 全長 | 256mm | |
|---|---|---|
| ドイツ戦車 パンサーG 初期型(No.35170) 全長 | 256.6mm | |
| ドイツ戦車 パンサーG 後期型(No.35176) 全長 | 257mm | |
| パンサーG初期型 シングルモーターライズ(No.30055) 全長 | 257mm | |
| ドイツ戦車 パンサーD型(No.35345) 全長 | 254mm | |
| ドイツ パンサー中戦車(No.35065) 価格 | 2,750円 | 税込 |
| ドイツ戦車 パンサーG 初期型(No.35170) 価格 | 4,290円 | 税込 |
| ドイツ戦車 パンサーG 後期型(No.35176) 価格 | 4,290円 | 税込 |
| パンサーG初期型 シングルモーターライズ(No.30055) 価格 | 7,480円 | 税込 |
| ドイツ戦車 パンサーD型(No.35345) 価格 | 4,620円 | 税込 |
| ドイツ パンサー中戦車(No.35065) 発売 | 1975年 | 1975年8月 |
| ドイツ戦車 パンサーG 初期型(No.35170) 発売 | 1993年 | 1993年12月 |
| ドイツ戦車 パンサーG 後期型(No.35176) 発売 | 1994年 | 1994年6月 |
| パンサーG初期型 シングルモーターライズ(No.30055) 発売 | 2012年 | 2012年10月27日 |
| ドイツ戦車 パンサーD型(No.35345) 発売 | 2015年 | 2015年7月18日 |
| 全長の最小値 | 254mm | パンサーD型(2015年) |
| 全長の最大値 | 257mm | パンサーG後期型・モーターライズ |
| 全長の振れ幅 | 3mm | 算出値。40年で3mm |
| 振れ幅の実車換算 | 105mm | 35倍した値 |
| 最古と最新の間隔 | 40年 | 1975年8月→2015年7月 |
| 価格の倍率 | 1.68倍 | 35065→35345。算出値 |
| モーターライズ版の価格差 | 3,190円 | 30055と35170の差 |
| モーターライズ版の使用電池 | 4本 | 単3形(LR6)。モーターは1個 |
この0.2mmを走行機構の名残と断定はできない。ここで比べているのは公称値であり、公称値の丸め、型式(初期型と後期型)の差、金型世代の違いでも同じ程度の差は出るため、差の原因を一つに帰さないほうがいい。
言えるのは順序だけだ。走行させる機構が先にあり、その機構が収まる箱としての車体寸法があり、その寸法から縮尺の分母が決まったとすれば、35という数字の不合理さには説明がつく。逆に戦車の実寸から縮尺を決めたとすると、35を選ぶ理由が見つからない。
257mm×35=8.995m。
35176の公称全長257mmを35倍すると8.995m、すなわち8995mmになる。
この数字の性格が厄介で、9mとの差は5mmしかないのに9mではない。公称値そのものは256.0mm、256.6mm、257.0mm、254.0mmと0.1mm刻みで示されており、丸めが粗いわけではない。問題は、公称値が砲身を含むのか車体だけなのかという測り方が示されていないことと、同じ1/35のパンサーでも型式によって全長が3mm——実車換算で105mm——動く点にあるので、この換算は実車の車体長を求める計算としては使えない。
| キット全長(公称) | 257mm | キット番号35176 |
|---|---|---|
| 縮尺の分母 | 35倍 | |
| 換算値(推定) | 8.99m | 257mm×35の算出値 |
むしろ意味があるのは逆の方向で、もし「実物の寸法を暗算しやすい」という基準で縮尺を選んだなら、割り切れる分母が選ばれるはずである。ところが1/35で作業をすると、実物換算のたびに35という素因数の掛け算が発生する。模型を作る人間にとって、これは利便ではない。
後発の1/48ミリタリーミニチュアシリーズの分母は1/48であり、1/48は航空機模型で広く使われる分母だから他ジャンルとの互換という説明が成り立ちやすいが、1/35の35には、その種の理由が読めない。
少なくとも、実物換算の利便から選ばれた数字ではない。割り切れないという一点が、それを示している。
1961年11月か、1962年1月か——出典によって日付が一致しない。
タミヤ初の1/35キット「パンサータンク」の発売時期には、二つの日付が流通している。
一つは1962年1月で、タミヤ歴史館の年表に記載された、メーカー自身が掲げている値である。歴史館は2025年にリニューアルされ、パンサータンクも展示されている。
もう一つは1961年11月。日本プラモデル工業協同組合編『日本プラモデル50年史 1958-2008』の付録リストが出どころとされるが、そう書いているのは同書を引いた側の記述で、現物の付録リストに当たった報告は見当たらない。
差は2か月。日本のプラモデル史で頻繁に引用される日付が資料間で一致しておらず、どちらかが誤りなのか、それとも企画決定・出荷・店頭並びのどこを「発売」と呼ぶかの違いなのかも、現状では判断できない。
| タミヤ歴史館 年表 | 1962年 | 1月・メーカー公表 |
|---|---|---|
| 『日本プラモデル50年史』付録リスト典拠 | 1961年 | |
タミヤ初のプラスチックモデルは1960年5月の1/800戦艦大和で、木製模型を主軸としていた時期のプラスチック製品第1号にあたる。『日本プラモデル50年史』が扱う日本のプラモデル史の起点は1958年であり、1/35戦車の登場はその3〜4年後に位置する。
1960年に1/800の戦艦を出した会社が、1〜2年後に1/35の戦車を出す。この縮尺の跳び方には、船と戦車という被写体の大きさの差だけでは説明がつかない部分が残り、走行させるかどうかという設計上の前提の違いが効いている可能性はあるが、これも推論である。
TIPS
箱の表からは、金型の年代が読めない。
側面の小さな印刷や説明書の隅に年号が入っている個体がある。同じ1/35のパンサーでも、No.65が1975年8月・全長256mm・2,750円、No.345が2015年7月18日・全長254mm・4,620円。40年離れていて、全長の差は2mmしかない。つまり箱の表と全長だけでは、1970年代の金型か近年のスライド金型かが分からない。見分けたいなら、裏と側面を先に見る。
1968年1月ニュルンベルク、同年9月にMM No.1。
順序が読める日付の組が、もう一つある。ニュルンベルク国際玩具見本市への初出展が1968年1月で、ミリタリーミニチュアシリーズNo.1(35001)の発売が同年9月。間は8か月である。
海外の見本市に立ってから8か月後に、人形3体だけの箱を出している。走る機構を持たない構成が、この順序で現れた。
輸出市場では、モーターで走る戦車と静止した縮尺模型のどちらが評価されたのか。当時の見本市での反応を記録した資料は突き止められていないので、ここでは順序だけを置き、人形が主役になっていく過程は第2回で製品構成から追うことにする。
走行機構が抜けた穴に、何が入ったか。
モーターと電池が車体から抜けると、内部に空洞ができる。シリーズはその空洞を、走らないものの表現で埋めていった。
象徴的な例の一つが、タミヤ ドイツ88mm砲 Flak36/37。キット番号35017、MM No.17。発売を1972年とする資料もあるが、年は揺れている。ここで重要なのは年ではなく品目のほうで、砲は走らないにもかかわらず、走行機構を前提にしない製品が、走る戦車と同じ縮尺・同じシリーズ番号の列に並んだ。
しかも砲は一度きりの品目では終わっておらず、同じFlak36が北アフリカ戦線の仕様として、別のキット番号(35283)でも出ている。35017と35283という品番の隔たりからは、砲という走らない品目が初期の一度で終わらず、あとから列に足されていったことが読める。走る戦車であれば車体寸法と走行機構という制約が設計の先に立つが、砲にはその制約がないぶん、戦線や運用の違いをそのまま別のキットに割ることができる。走行機構を外して空いたのは車体内部の容積だけではなく、このシリーズに何を入れてよいかという枠のほうでもあった。
人形の員数も動いている。35001が3体、35002が4体だったのに対し、同じ「歩兵セット」という名で出ている大戦中期のセット(35371)は8体、縮尺を落とした1/48のWWIIドイツ歩兵セット(32602)では10体に増える。1箱に入る人の数が、シリーズの主題の変化をそのまま示している。
履帯も変わった。現行のモーターライズ仕様(30055)は走行を前提とした構成で、履帯の形式は公式ページに出ていない。動かす必要がなくなれば、垂れ方や踏面の摩耗を作り込む余地が生まれたと考えられる。
1970年代に日本の少年が戦車を作り続けた背景については、戦記漫画・雑誌・映画との相関がよく語られる。ただし、それを因果として示した資料は無い。確かなのは、走らせるための箱だった車体が、見せるための箱に変わったという製品構成上の推移である。
全長123mmの戦車が成立した地点。
縮尺の出自を測る物差しとして、いちばん分かりやすい製品がある。タミヤ ドイツI号戦車B型、キット番号35388。公称の全長123mm、全幅60mm。
パンサーGの257mm・96.2mmに対して全長は半分以下、全幅は約6割にとどまるので、単4電池2本とモーターとギヤボックスをこの容積に収めるのは現実的でない。もしモーターライズ兼用が製品化の前提として残っていたら、この車輌は1/35では成立しなかったと考えられる。
35388は履帯が部分連結式で、車体にはスライド金型が使われている。走らせないことを前提にした構造であり、走らせる前提だった時代の設計とは製法の世代がそもそも違う。
ただし「ここで縮尺の呪縛が解けた」と一点に定めるのは早く、走行機構を前提としない製品は1970年代から並行して出ているため、兼用がいつ終わったかは別に検証する必要がある。その線引きは第3回で、実車取材を経た近年の製品の副作用は第5回で扱う。
同一縮尺のなかに、半世紀が並んで売られている。
1/35という縮尺のもう一つの帰結が、これである。同じ縮尺のまま製品が積み上がっていくと、金型の世代差がそのまま棚に並ぶことになる。
DUAD SELECT
モーターの入らない戦車を、1輌手元に置く。
全長123mm、全幅60mm。パンサーGの隣に置くと、同じ縮尺という前提のほうが疑わしく見えてくる。部分連結式履帯とスライド金型という製法も、走らせない前提の設計がどこまで進んだかを示す実物資料になる。走行版と並べて棚に置けるのは、縮尺を変えなかったことの副産物である。
全長123mm・全幅60mm。モーターも電池も収まらない車輌が1/35で成立していることを示す対照サンプル。
タミヤ 1/35 ドイツI号戦車B型 35388
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パンサー系だけを見ても、初期型(35170)、後期型(35176)、D型(35345)、派生の駆逐戦車ヤークトパンサー後期型(35203)と揃っていて、型式単位で別キットにするこの密度は、単一縮尺を長期間維持したからこそ成り立つものである。同じ主題を数十年後に新規金型で作り直した例もあり、ドイツ国防軍 戦車兵セット(35354)は、35001と同じ「戦車兵」である。
この並存は、公式製品ページの発売年月と価格にも出ている。パンサー系で最も古い「パンサー中戦車」(35065)の発売は1975年8月で、いまも2750円という価格が載っており、1993年12月の初期型(35170)と1994年6月の後期型(35176)がともに4290円、2015年7月18日のD型(35345)が4620円と続く。初期型と後期型は発売が半年しか離れていない対の製品で価格も同じだが、D型が加わるのはそこから二十年あとで、四十年ぶんの製品が置き換えではなく並存のまま一枚の価格表に収まっている。新しい型式が加わっても古い品番が落ちないので、列は入れ替わりではなく積み増しで伸びていく。
走行機構を残した仕様だけは、この列の外に置かれている。パンサーG初期型のシングルモーターライズ仕様(30055)は2012年10月27日の発売で7480円、同じ車種のディスプレイキットである35176の4290円とは価格帯が違い、シリーズもミリタリーミニチュアではなく1/35戦車シリーズのほうに属している。走らせるという前提は、シリーズの本流から外れたあとに消えたのではなく、別の列として分かれて残った。
TIPS
分母が揃っているというのは、こういうこと。
縮尺が同じなら、他社のキットも同じ棚に置ける。タミヤの1/35は1968年から続いていて、現行のパンサーだけでも全長254〜257mm、価格2,750〜7,480円の幅がある。半世紀ぶんの製品が、3mmの誤差の中に収まったまま同じ物差しの上に並ぶ。ただし棚のほうは揃わない。1/35の中戦車は全長25cm前後、I号戦車B型は123mmで、同じシリーズでも必要な奥行きが倍違う。
さらにパンサーG後期型は、1/35RCタンクシリーズ(23652)として完成モデルにもなっている。走らせるための寸法から始まった縮尺が、走行機構を捨てて標準になり、また走るものに戻ってきている。
公式オンラインストアの1/35ミリタリーミニチュアシリーズ一覧は、商品コード順で8ページに及ぶ(2026年9月時点。掲載点数は変動する)。1968年に人形3体で始まった列が、同じ分母のまま維持されている量である。
並存には副作用もあって、半世紀分の製法が同じ縮尺・同じシリーズ名で売られているため、箱の見た目からは金型の世代が読めない。1970年代の金型のキットと、スライド金型で抜いた近年のキットが、同じ棚に同じ顔で並ぶ。買う側が品番から世代を推測する技術を持つことになった、というのがこのシリーズの読み方の一つである。
1/35という物差し。
35という数字の出どころは、模型の側ではなく人形の側にあった。257mm×35=8.995mという端数が、その分母が実物換算の利便では選ばれていないことを示す。広く語られてきたのは、モーターと単4電池2本とギヤボックスを車体に収める寸法からの逆算、という筋である。
そして、ミリタリーミニチュアシリーズNo.1(35001・1968年9月)は人形3体で、戦車を含まない。走らせるための寸法から出発した縮尺が、走行機構を捨てたあとも残り、35388の全長123mmのような小型車輌まで飲み込んだこと。この二つである。
次の行動は一つだけ。手元のキットの箱側面にある全長の表記を読み、35を掛けてみること。割り切れない数字が出てきたら、その違和感が正しい。