1%は、軽トラを数えていない。
軽トラックは、その1%に数えられていない。
「新車のMT比率は1%」という数字は、1.4%(2019年)で引かれることが多い。出どころは日刊自動車新聞2020年12月8日付で、自販連調べとして報じられたものである。この1.4%には母集団がはっきり書いてある。「乗用登録車販売に占める」比率なので、軽自動車ははじめから外にある。
1990年に約3割、2000年に約1割、そして2019年に1.4%という減り方はよく紹介されるが、いずれも同じ母集団の話なので、ダイハツ ハイゼットもスズキ キャリイも、この線には一度も乗っていない。1%という数字が語っているのは、軽トラックが消えたことではなく、軽トラックを数えていないというだけのことである。
乗用登録車のMT比率と軽商用車のMT比率は、混ぜた瞬間にどちらの話でもなくなる。別々の母集団の、別々の数字である。
車種別の実数を見ると、前提がさらに崩れる。2020年の集計で、マツダ ロードスター(ND)は4,689台中3,217台がMT、比率68.6%。ここは想像どおりだ。だがスズキ スイフト(スポーツ含む)は33,238台中8,052台、比率24.2%。MTの台数ではロードスターの2.5倍が売れている。
さらにマツダ CX-5は31,538台中1,020台がMTで比率3.2%、MAZDA3は24,667台中1,028台で4.2%。比率は小さいが、SUVとハッチバックで1,000台を超える人がMTを選んでいる。MAZDA2は5.5%、デミオは3.6%(26,656台中972台)、CX-3は4.9%、CX-30は2.7%、アクセラは1.7%。ホンダ フィット(先代GK)は74,410台中1,151台で1.5%だった。このフィットのMTは、2020年2月14日発売の4代目で消滅している。4代目のトランスミッションはe:HEVの電気式無段変速機とCVTだけで、MTの設定はない。
比率と実数は別の話である。比率の高い車は話題になり、実数の多い車は静かに売れる。
5.5万円と、7.7万円のあいだ。
JAMA『軽自動車の使用実態調査報告書』として引用された2019年の値では、軽トラックのMT比率は保有ベースで約70%だが、同じ調査の軽1BOXバンは3割弱にとどまり、どちらも軽商用車でありながら比率は倍以上離れている。
新車ベースではまた別の数字が出てくる。スズキ キャリイは購入者の約50%がMT(2022年度)。登録車の1.4%と並べると、同じ「MT比率」という言葉が、35倍違う世界を指していることになる。
| 軽トラック(保有・2019年) | 70% | 約70%(JAMA引用値) |
|---|---|---|
| 軽1BOXバン(保有・2019年) | 30% | 3割弱 |
| スズキ キャリイ(新車・2022年度) | 50% | 約50%(メーカー説明) |
| ダイハツ ハイゼットトラック(新車・2022年度前後) | 35% | 30〜40%の中央 |
保有ベースの7割と新車ベースの5割は、混ぜてはいけない。保有には10年、20年前に売れたMTが残っているため、いまの発注判断を映しているのは新車ベースの数字のほうである。
その発注判断が、価格表にそのまま出ている。ダイハツが公表しているハイゼットトラックのメーカー希望小売価格を2WDから見ていくと、スタンダードが5MT 109万4500円/CVT 114万9500円、ハイルーフが111万1000円/116万6000円、エクストラが130万9000円/136万4000円、ジャンボ スタンダードが125万9500円/131万4500円、ジャンボ エクストラが141万9000円/147万4000円で、5段階のグレードすべてで差額は5万5000円に揃っている。
ところが4WDに移ると、この5万5000円が崩れる。スタンダードは122万6500円/130万3500円で差額7万7000円、ハイルーフ、スタンダード“農用スペシャル”、ジャンボ スタンダードも同じ7万7000円だが、同じ4WDでもエクストラとジャンボ エクストラは5万5000円のまま動かないため、2万2000円の段差が4WDの下位グレードにだけ立っていることになる。この段差の理由をダイハツは公表していないのでここから先は推測になるが、数字の形だけははっきりしている。4WDの下位グレードほど、CVTを選ぶ側の負担が重い。このグレードが実際にどう使われているかまでは、価格表からは分からない。
| スタンダード 2WD 5MT | 109.45万円 | |
|---|---|---|
| スタンダード 2WD CVT | 114.95万円 | 差+5.5 |
| ハイルーフ 2WD 5MT | 111.1万円 | |
| ハイルーフ 2WD CVT | 116.6万円 | 差+5.5 |
| エクストラ 2WD 5MT | 130.9万円 | |
| エクストラ 2WD CVT | 136.4万円 | 差+5.5 |
| ジャンボ スタンダード 2WD 5MT | 125.95万円 | |
| ジャンボ スタンダード 2WD CVT | 131.45万円 | 差+5.5 |
| ジャンボ エクストラ 2WD 5MT | 141.9万円 | |
| ジャンボ エクストラ 2WD CVT | 147.4万円 | 差+5.5 |
| スタンダード 4WD 5MT | 122.65万円 | |
| スタンダード 4WD CVT | 130.35万円 | 差+7.7 |
| ハイルーフ 4WD 5MT | 124.3万円 | |
| ハイルーフ 4WD CVT | 132万円 | 差+7.7 |
| スタンダード“農用スペシャル” 4WD 5MT | 125.4万円 | |
| スタンダード“農用スペシャル” 4WD CVT | 133.1万円 | 差+7.7 |
| ジャンボ スタンダード 4WD 5MT | 139.15万円 | |
| ジャンボ スタンダード 4WD CVT | 146.85万円 | 差+7.7 |
| エクストラ 4WD 5MT | 146.3万円 | |
| エクストラ 4WD CVT | 151.8万円 | 差+5.5 |
| ジャンボ エクストラ 4WD 5MT | 157.3万円 | |
| ジャンボ エクストラ 4WD CVT | 162.8万円 | 差+5.5 |
軽自動車の排気量は1990年以降660ccで固定されているため、限られた出力を積載時に引き出すには伝達効率とダイレクト感が効くという説明が、ユーザー側の理由として繰り返し挙がる。斜面や未舗装路では半クラッチによる速度制御をそのまま作業の一部として使う場面もあり、この操作は変速機を「移動の道具」ではなく「作業機械の操作系」として使っている。
トヨタ ハイエースは2017年の改良以降MTを設定しておらず、新型ディーゼルの組み合わせもATであるから、同じ商用でも普通車クラスからMTは消え、軽トラだけが残った。車格、使い方、価格表——どれか1つでは説明が付かないが、3つとも同じ方向を指す。
ちなみに、燃費は1台しか出せない。
MT車のほうが燃費がいい、という定説はよく聞くが、確かめようとすると数字が集まらない。取れたのは1例だけで、スズキ スイフトスポーツZC33Sの6MTが17.6km/L、6速トルコンATが16.6km/Lと、MTが1.0km/L上回っているものの、この値は個人ブログ経由であって、スズキ公式諸元表での再確認ができていない。
1台で決めるわけにはいかないので理屈に戻ると、トルコンATはロックアップの外で滑るぶんMTが有利になりやすく、一方でCVTは変速比を連続で選べるため計測上ATが上に出やすく、DCTは機械式クラッチを自動化した構造なのでMTに近い。つまり「ATが一括りにできない」というのが、いま言える精一杯である。
さらに、カタログの数字は走り方の幅のどこか1点でしかなく、ZC33Sのオーナー報告では市街地・エアコンONで13〜14km/Lという値が挙がるので、カタログの17.6km/Lは、その帯の上のほうを指しているにすぎない。
定説の答えは、いまのところ「車種による」である。それより効くのは変速機の構成が売れ方を変えることのほうで、スイフトスポーツのMT比率はZC32Sの8割以上からZC33Sの約6割へ下がったとされる(個人サイトの記述で、スズキの公表値ではない)。ATを足せばMT比率が下がるのは当たり前だが、比率だけを見て「MT離れ」と読むと因果を取り違えることになる。
DUAD SELECT
MTとATの伝達効率を、機構図で読み直す。
「MTのほうが燃費がいい」を1車種のカタログ値で決めるのは無理がある。トルコンAT、CVT、DCTの伝達経路がどこで損失を出すのかを機構図で見ておくと、公式諸元が揃ったときに自分で判断できる。FL5の変速比を確定させたい向きには、開発者インタビューとシャシー解説が入ったムックが早い。
MT・トルコンAT・CVT・DCTの伝達効率を機構図で比較している。本文で結論を出せなかった論点を自分で読み直せる。
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本文で数値を挙げきれなかった変速比や剛性を、諸元表で確かめられる。開発者インタビューが同じ冊子に載る。
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FL5で、6速を数え直す。
燃費でMTとATを比べられない車もある。ホンダ シビックタイプR FL5(型式6BA-FL5、2022年9月〜)はATを設定しておらず、6MT専用だからで、型式の頭の「6BA」は1文字ずつ意味の違う記号で、国土交通省の識別記号表によれば、6が平成30年規制かつ低排出ガス75%低減認定、Bがガソリン・LPGでハイブリッドなし、Aが乗用車である。
全長×全幅×全高は4,595×1,890×1,405mm、ホイールベースは2,735mm。トレッドは前1,625mm/後1,615mmで前輪側が10mm広く、FFで330PSを受ける前軸の接地条件に効く設計と考えられる。最低地上高125mmは、輪留めと駐車場の段差に気を使う水準である。
TIPS
6速が0.734なら、そこは減速していない。
ギア比は1を境に意味が変わる。シビックタイプR FL5の6速は0.734で、エンジン側より出力側が速く回るオーバードライブにあたる。1速3.625から数えた落差は約4.9倍あり、そこに最終減速比3.757が掛かって、ようやく駆動輪に届く減速比になる。カタログのギア比表で最終段が1を切っているかを確かめれば、その車が高速側で回転を落とす設計かどうかは、試乗の前に見当が付く。
エンジンは2.0L直4 DOHC VTECターボのホンダ K20Cで、総排気量1,995cc。最高出力243kW(330PS)/6,500rpm、最大トルク420N・m(42.8kgf・m)/2,600〜4,000rpmと、トルクは1,400rpmの幅でフラットに出る。
車両重量1,430kgなので、330PSに対するパワーウェイトレシオは約4.33kg/PS(計算値)となる。タイヤは前後同サイズの265/30ZR19、サスペンションは前ストラット/後マルチリンク、ブレーキは前後ベンチレーテッドディスクだが、ローター径と前4ポットキャリパーの有無は、公式の諸元表に出ていない。
330PS
シビックタイプR FL5の最高出力
FL5はATを設定せず、この出力を6速MTだけで受ける。車両重量1,430kgに対するパワーウェイトレシオは約4.33kg/PSになる。
WLTCモード総合12.5km/Lに対し、市街地8.6/郊外13.1/高速道路15.0km/Lで、市街地と高速の差は約1.7倍あるため、総合値だけを見ていると、この使用条件依存が見えない。燃料タンクは47Lの無鉛プレミアム指定で、総合12.5km/Lなら満タン航続は計算上約587km、つまり500km台のクルマである。
満タン航続の約587kmも総合値を前提にした数字なので、市街地だけを走るなら、給油までの距離はこれより短くなる。
1速3.625/2速2.115/3速1.529/4速1.125/5速0.911/6速0.734、最終減速比3.757(ホンダ公表の主要諸元)。1速から6速までの落差は約4.9倍。6速は0.734のオーバードライブで、高速道路15.0km/Lという値は、この最終段の高さの上に乗っている。
新車価格は6MTで4,997,300円(税込、2022年9月時点)と、500万円をわずかに切る設定である。前期型のカタログ掲載期間は、販売店のデータベース上で2022年9月から2026年6月まで。
3ペダルは、誰が作り続けるか。
残る理由は、買う側と作る側で別々にある。
需要側は3つに分かれ、第1に挙がるのが、業務要件でMTが要る層である。軽トラの保有ベース約7割という数字はこの層の大きさを示すようでいて、保有には古い年式がそのまま残っているので、いま要件としてMTを選んでいる人の数とは別である。新車ベースのキャリイ約50%のほうが、この層の輪郭には近い。第2に、比率は低いが実数がある乗用車層で、CX-5の1,020台、MAZDA3の1,028台、スイフトの8,052台(いずれも2020年)はこの層である。第3に、免許を持っているという条件があり、普通免許の新規取得者のAT限定比率が約70%(2019年ごろ)なので、残る約3割は非AT限定ということになる。この構造は、母集団を細くはしていない。
海外では事情が違う。ホンダ シビックは2024年、北米で242,005台中17,424台がMT(7.2%、Autoblogによる推計)だが、順位まで語れる公式統計は無いので、比率と実数だけになる。同じ2024年、マツダ ロードスターの北米MT比率は約70%で、日本の2020年実績68.6%とほぼ同水準である。ただし日本側は2020年、北米側は2024年で4年の開きがあるので、同じ年どうしを比べた数字ではない。それでも桁は揃っている。他の車種でも同じかどうかは、車種をまたいで比べられる統計が無い。
作り続ける側の条件は2つで、1つはMTの設計・生産技術がすでに償却済みであること、もう1つは供給が限られる車種で単価を上げられることである。FL5が6MT専用で4,997,300円という設定は、この構造の中にある。ただしこれは各社の公表した戦略ではなく、価格と設定から読める構造の推論である。
4,997,300円
シビックタイプR FL5(6MT)の新車価格
税込、2022年9月時点の値で、500万円をわずかに切る設定である。ATを選ぶ余地のない車に、この価格が付いている。
2026年に入ってからの動きが2つある。2026年1月、スバルはWRX STI Sport# プロトタイプを公開し、約6年ぶりのMT搭載STIとして報じられている。2026年2月には、トヨタがヤリスの特別仕様車Z URBANOに6速MTを追加した。減り続けるという前提に、供給側が反する動きを出している。
この先について、日付が確定しているのは免許制度の側だけである。道路交通法施行規則の改正(令和6年内閣府令第60号)で、AT限定がトラック・バス側へ広がっている。普通・普通第二種が2025年4月1日、AT準中型・AT中型・AT中型第二種が2026年4月1日で、ここまでは施行済みである。AT大型は2027年4月1日、AT大型第二種は2027年10月1日。免許の種類が新しく作られたのではなく、既存の中型免許などに、条文の言葉でいう「クラッチの操作装置を有しない」車に限るという限定が付く形で、条文にはAT中型免許・AT準中型免許・AT中型第二種免許という語がすでに載っている。背景として挙げられているのが、運輸業におけるAT大型車の普及率47%という数字である。現場のATがここまで広がったあとに、免許の側が動いた。並べると、そういう順番になっている。
ただしこれは商用車の話で、2026年4月1日にAT中型免許ができたことと、ロードスターやシビックタイプRのMTが売られ続けるかどうかの間に、直接の因果があるわけではなく、同じ「MTが減る」という言葉で結ぶと、別の市場の話が混ざってしまう。
乗用車側で「MTが◯年に終わる」と書ける日付——具体的なモデルの生産終了の公表、あるいはMT設定の期限を定めた法規の施行日——は、いまのところ出ていない。排ガス規制や燃費基準がMT設定に与える影響についても、日付と条文で示せる資料が取れていないため、終わりの年は書かない。
「MT車は踏み間違い事故を起こしにくい」という主張が広く流通しているが、変速機形式別(MT/AT別)に集計された事故統計は、今回あたった範囲では見つけられなかった。年齢層別・事故類型別の分析は公表されているものの、変速機での切り分けが見当たらない。つまり、この説は肯定も否定もできない。
TIPS
1速をさらに割る、もう一段のギア。
4WDの軽トラには、通常のギアの手前にもう一段減速する副変速機を持つ仕様がある。畑や斜面で使う場合、1速をさらに割るこの機構が効く。カタログでは「デフロック」「4WD・副変速機付」といった表記で並ぶ。軽自動車の排気量は1990年以降660ccで固定されているので、限られた出力を積載時に引き出す手立てとして、変速機の側で稼ぐ設計が残った。半クラッチで速度を作る使い方が現場に残っているのも、同じ理由である。
変速機別の長期比率は、同じ調査を追えば分かる。JAMA『軽自動車の使用実態調査』は1981年から隔年で続いており、2023年度版PDFが公開されている。乗用車側は『2025年度乗用車市場動向調査』が2026年3月に発表された。どちらも誰でも開けるので、ここに並べた比率が次にどう動いたかは、同じ調査の次の版を開けば確かめられる。
キャリイが守ったもの。
MTを選ぶのは誰かという問いに、1つの数字では答えられない。よく引かれる1.4%(2019年)は「乗用登録車販売に占める」比率で、軽自動車を含まない。その外側で、軽トラックは保有ベースで約70%、キャリイの新車購入者は約50%がMTを選んでいる。比率の高いロードスター(68.6%)より、実数ではスイフトの8,052台、CX-5の1,020台のほうが多い(いずれも2020年)。
軽トラのMTが残っているのは、思想の話ではなさそうだ、というところまでは言える。ハイゼットトラックのMT/CVT差額は、2WDなら5グレードすべてで5万5000円。ところが4WDでは、スタンダード・ハイルーフ・農用スペシャル・ジャンボスタンダードの4グレードだけが7万7000円に開く。660ccで積載を扱う条件と、半クラッチを速度制御として使う現場が、その後ろにある。
「MTのほうが燃費がいい」という話は、ZC33Sの6MT 17.6km/L対6AT 16.6km/Lのような1例では成り立つ。ただしFL5は6MT専用で、そもそも並べる相手がいない。330PS/6,500rpm、420N・m/2,600〜4,000rpm、1,430kg、47L、WLTC市街地8.6/郊外13.1/高速15.0km/L。
次の一手は1つだけ。ディーラーで諸元表のPDFを開き、いま買える1台のMTとATのWLTC値を、市街地・郊外・高速の3行で見比べてみること。総合値だけでは何も分からない。