1988年に、9億冊が売れた。
書籍の推定販売部数は、1988年に9億4,349万冊。出版科学研究所の集計による推定販売部数で、日本書籍出版協会が公開する出版統計にも同じ数字が載る(取次ルート経由・雑誌を含まない)。
1957〜1976年生まれは1988年時点で12歳から31歳にあたる。同じ時期に、POPEYE創刊(1976年)から平凡パンチ休刊(1988年)までの12年が収まる。誌面に接したかどうかは人によるので、ここで言えるのは年代が並んでいるという事実までになる。ただし文庫・ムック・ノベルズの点数推移は、年次で追える形になっていない。1970年代の各年の実数は、『出版指標年報』のような年鑑を当たる必要がある。今回はそこまで手が届いていないため、年ごとの推移までは追えなかった。伸び率は出せないが、絶対量が1988年に頂点を打ったという順序は動かない。
部数の頂点は1988年、金額の頂点は1996年の2兆6,563億円で、8年ずれている。冊数が伸びなくなったあとも金額が伸びた期間があった、ということだ。その8年に何が売れたかは、いま棚の中段に残っている判型を見れば見当がつく。
2015年の書籍推定販売部数は6億2,633万冊で、1988年のピーク9億4,349万冊比では約33.6%減にあたる(出版科学研究所の集計による推定販売部数)。1975年単年の実数を確かめられていないので、どの年の水準に戻ったのかまでは言えない。言えるのは、1988年の山から3分の1が落ちたという幅のほうである。紙の出版物の販売額のほうは、1996年のピークから2018年までで約半分になったと報じられた(日本経済新聞、2019年)。
供給が伸びた時期と、買った本を捨てずに置いた時期は重なっている。ただし片方がもう片方を生んだと言える材料は無いし、そもそも「捨てない習慣が定着した」と数字で示した資料も見当たらない。重なっているのは、いま手元にある本の量と、それが売られていた時期だけだ。それでも、いま本棚が重い理由を記憶の側に求めなくても、買った時期の供給量で説明はつく。
一軸目——紙の寿命は、1冊ごとに違う。
紙の寿命は本ごとに違う。洋紙のサイズ剤定着に硫酸アルミニウムを使った紙、いわゆる酸性紙は、内部に残った酸でセルロースが加水分解して分子鎖が切れていくため、小口が褐色になり、めくると角から欠ける。あれは汚れではなく、分解の進行である。
目安として流布している数値は、酸性紙が製造から50〜100年、中性紙が100年以上。ただしこれは概算にすぎず、温度・湿度・光の条件で大きく動く。東京都立図書館は劣化機序を硫酸アルミニウム由来の加水分解と説明し、所蔵資料では1940〜50年代刊行分の劣化が顕著だとしているが、同じ50年でも、押入れの段ボールと空調の効いた居室では別の話になるので、単一の年数で語ると必ず不正確になる。
中性紙側には国際規格がある。ISO 9706は1994年制定で、pHや耐折度などを要件として定める、いわゆるパーマネントペーパーの基準である。関連して、記録の永続性・耐久性を扱うISO 11798は2023年版、保存容器の材質を規定するISO 16245は2009年に出ており、残す本の話は、最後は箱の材質の話になる。
日本の製紙が酸性抄紙から中性抄紙へ移っていったのは1970〜90年代にかけてで、切り替えの時期は会社ごとに違う。つまり同じ棚の上下段に、寿命が2倍違う紙が混在している。
厄介なのは見た目で分からないことで、背表紙を眺めているかぎりどれも同じ本に見え、違いが出るのは小口と、めくったときの手ざわりのほうになる。
だから、確かめるには手を動かすしかない。背を見るのではなく小口を見て、並べて比べれば、褐色の濃さが一冊ずつ違うことが分かる。
見分けは自宅でもある程度つく。pH試験紙を小口の裏側に当て、天の変色の進み方を刊行年の違う同じレーベルで並べて比べ、ページの角を軽く折って戻したときに白い折れ筋が立つかを見る。個々の判定は粗いが、10冊単位で並べると傾向は出る。
古書店でかけてもらったパラフィン紙、いわゆるグラシン紙についても注意がいる。日本図書館協会の資料保存に関するQ&A(2022年)は、一般的なグラシン紙は酸性であり、かけたままにすると酸が資料へ移行して劣化を促すと説明している。守っているつもりのカバーが、寿命を削っている場合がある。
二軸目——もう一度、手に入るか。
残す価値は紙の状態だけでは決まらない。同じ本がもう一度手に入るなら、その1冊は棚の面積を占め続けなくてよいので、判定にはもう一つ、再入手可能性という軸が必要になる。
国立国会図書館デジタルコレクションには、絶版等で入手困難な資料を利用者登録者が自宅で閲覧できる個人向けデジタル化資料送信サービスがあり、ここで「再入手可能」の範囲は、絶版本を含む方向に広がったと考えられる。著作権の保護期間が70年へ延びたことで、パブリックドメインに入る作品が一定期間出てこなくなった点も、「再入手できるか」を数える側には効いてくる。
手元の版を特定する道具もある。岩波文庫は1927年(昭和2年)、レクラム文庫を範に岩波茂雄が創刊し、創刊書目は23冊だった。『岩波文庫の80年』(2007年)には刊行順の全書目、約5,400冊と定価基準の変遷が収録されているので、自分の棚の1冊が何年のどの版かは、記憶ではなく索引で決まる。
5,400冊
『岩波文庫の80年』が収録する刊行順の書目数
2007年刊。定価基準の変遷も収録され、手元の1冊の版を特定する索引になる。
手放す側の経済合理性はどうか。古書買取の実勢単価は取得できていないため、「売れば元が取れる」とも「二束三文だ」とも書かない。買取価格を判定軸に入れるなら、自分の持ち込む1箱で見積もりを取るのが早い。
TIPS
利用者登録は、片づける前に済ませる。
国立国会図書館の個人向けデジタル化資料送信サービスは登録した人の画面にしか届かないので、棚を片づけ始める前に利用者登録を終えておく。登録が済んでいれば、抜いた1冊の書名をその場で引き、絶版でも読み直せる本と、紙を手元に置くしかない本に分けられる。判定は1冊ずつになる。保護期間が70年へ延びた分は、待っても一定期間はパブリックドメインに出てこないのだから、公開を見込んで残す本は作らない。作業の順番としては、登録、書名、それから箱である。
再入手可能性の細かい判定手順は第2回「もう一度買える本は、置かなくていい。」で扱うが、第1回で決めるのは、紙が何年もつかである。
三軸目——床が受け持っている重さ。
文庫1冊は約150〜200gで、紙の坪量と束(つか)で幅が出る(この重量は概算で、出版社や規格の公表値ではない)。四六判単行本は約350〜450gなので、中央値で見れば約2.3倍、同じ冊数を並べても荷重は倍以上違ってくる。
高さ2,400×幅1,800×奥行300mm、棚板6段の壁一面の本棚に四六判を満載した場合、書籍と棚の合計は254kgになる。254kg×9.8 m/s²=2,489Nを接地面積0.54m²(幅1,800×奥行300mm)で割ると約4,610 N/m²だが、これは計算値であって実測値ではなく、総重量254kgと接地面積0.54m²という前提自体も見積もりなので、判型・詰め方・棚材の自重で当然変わる。
4,610N/m²
壁一面本棚が床にかける圧
住宅の居室の設計値1,800N/m²を、2.5倍以上超える。
比べる相手は建築基準法施行令85条で、住宅の居室は床版の計算用で1,800 N/m²、大梁・柱の計算用では1,300 N/m²である。同条の表に「書庫」の項目はないため、自宅の蔵書も「住宅の居室」の値で読むことになる(倉庫業を営む倉庫は床版用3,900 N/m²が下限)。
ただし、施行令85条は構造設計に使う値であって既存住宅の実際の許容耐力とは別問題であり、壁一面の本棚を置いた家が即座に危険という話ではない。言えるのは、設計時に想定された用途の数字ではないということだ。
国土交通省の官庁営繕の基準では、書架は床荷重の割増対象となる重量機器として扱われるので、図書館が別の構造で建っているのは、蔵書が偉いからではない。
紙は1冊では軽く、それが数百冊まとまったときだけ建物の話になるので、床の数字は、その「まとまったとき」を見て決められている。
受ける側の話が済めば、次は支える側になる。床が持ちこたえても棚板のほうが先に音を上げることがあり、そこで効くのは板の厚みではなく、支点と支点のあいだの距離だ。
たわみは、スパンの4乗で効く。
棚板が中央で下がるのは、板が安物だからではない。等分布荷重を受ける単純支持梁のたわみは δ=5wL⁴/384EI で決まり、Lはスパン、Iは断面二次モーメント、Eはヤング係数である。
板厚18mm、パーティクルボード相当のE=2,500 N/mm²として同一の荷重条件で計算すると、スパン900mmのとき4.14mm、1200mmのとき13.08mm。スパンを1.33倍にするだけで、たわみは3.16倍になる。いずれも試算値であり、荷重条件と材料のばらつきで変わるうえ、E値そのものも樹種・製法で幅があるので、2,500 N/mm²は代表値に過ぎない。
手は三つある。仕切りを入れてスパンを900から600mmに詰めると(600/900)⁴=0.198、約0.20倍になり、板厚を18から24mmにすれば断面二次モーメントが厚さの3乗で効くので(18/24)³=0.42倍。0.20倍・0.42倍はいずれも単純支持・等分布荷重・線荷重一定を前提に、δ=5wL⁴/384EIとI=bh³/12から導いた比である((600/900)⁴=0.1975、(18/24)³=0.4219)。三つめは材料をタモ集成材(E=9,500 N/mm²、パーティクルボードの3.8倍)に替える手だが、たわみはEに反比例するだけで、スパンのように4乗では効かない。
| スパン900→600mm | 0.2倍 | (600/900)⁴ |
|---|---|---|
| 板厚18→24mm | 0.42倍 | (18/24)³ |
| パーティクルボードのE | 2,500N/mm² | 代表値 |
| タモ集成材のE | 9,500N/mm² | 3.8倍 |
仕切り板を1枚立ててスパンを900から600mmに詰める効果(0.20倍)は、板厚を18から24mmにする効果(0.42倍)より大きい。板を厚くするより、スパンを詰めるほうが効く。
この節の要点は、第3回「棚がたわむのは、板のせいではない。」に引き継ぐ。
DUAD SELECT
たわみと酸は、道具で止まる。
スパンを600mmに詰めれば計算上たわみは約0.20倍になるが、棚を作り直す必要はない。棚柱とダボレールで仕切りを1枚立てるだけで条件は変わる。あわせて、残すと決めた本を酸から隔離する箱と、手元の紙が酸性か中性かを推定する試験紙を挙げる。判定の前に測る、という順序である。
判型——残す本は、寸法で決まる。
文庫判はJIS A列のA6、105×148mmだが、横105mmは各社共通でも縦は揃っていない。講談社文庫が148mmでA6準拠、新潮文庫と文春文庫が151mm、集英社文庫が152mmと、最大で4mmの差が出る。新潮文庫がA6より高いのは、スピン(紐しおり)を装着するため天を化粧裁ちしないからである。レーベルと刊行年で数ミリ動くので、箱を選ぶときは手元の実物を測る。
新書判は103×182mmで、横は文庫より2mm狭い一方、縦はA6の148mm比で34mm高い(151mmの新潮文庫・文春文庫を基準にすれば31mm)。四六判は127×188mm。文庫の隣に新書を混ぜると、天のラインがA6基準で34mm跳ね、背の日焼け位置も揃わなくなるので、棚が雑然と見えるのは、冊数よりも判型の混在が効いている。
揃えるなら、冊数を減らすより先に判型を揃えるほうが早い。同じ高さのものを並べれば数が多くても線は通る一方、少なくても高さがばらつけば散らかって見える。
判型がそろって見えても、実寸は出版社で動く。同じ文庫の棚でも天地の寸法は一つに揃っていないので、その差が棚の線をわずかに崩している。
| 文庫判(A6) 幅 | 105mm | |
|---|---|---|
| 文庫判(A6) 高さ | 148mm | 講談社文庫はこの寸法 |
| 新潮文庫・文春文庫 高さ | 151mm | |
| 集英社文庫 高さ | 152mm | |
| 文庫の高さの最大差 | 4mm | 棚板1枚の高さを決めるのはこの差 |
| 新書判 幅 | 103mm | |
| 新書判 高さ | 182mm | |
| 新書判とA6の高さ差 | 34mm | |
| 四六判 幅 | 127mm | |
| 四六判 高さ | 188mm | |
| 文庫本1冊の重量(約) | 150g | 150〜200g。判型と紙質で変わる |
| 四六判単行本1冊の重量(約) | 350g | 350〜450g。判型と紙質で変わる |
| 酸性紙の推定寿命 | 50年 | 温度・湿度・光の条件で大きく動く |
| 中性紙の推定寿命 | 100年 | 以上 |
| 劣化が顕著な所蔵資料の刊行年代 | 1940年代 | 〜1950年代 |
| ISO 9706 制定 | 1994年 | 文書用紙の永続性要件 |
| ISO 11798 | 2023年版 | 記録の永続性・耐久性 |
| 住宅の居室 積載荷重(床版用) | 1,800N/m² | 建築基準法施行令85条 |
| 住宅の居室 積載荷重(大梁・柱用) | 1,300N/m² | 同条。部材で設計値が違う |
| 倉庫業を営む倉庫 積載荷重(床版用の下限) | 3,900N/m² | 同条第3項 |
| 書庫 積載荷重(床版用) | 7,800N/m² | 国土交通省 建築構造設計基準。施行令85条の表に書庫の行は無い |
| 壁一面本棚の総重量(試算) | 254kg | 高さ2,400×幅1,800×奥行300mm・6段・四六判満載 |
| 壁一面本棚の接地圧(試算) | 4,610N/m² | 住宅居室の設計値1,800を超える |
| 棚板たわみ(板厚18mm・スパン900mm) | 4.14mm | |
| 棚板たわみ(板厚18mm・スパン1200mm) | 13.08mm | スパン1.33倍で3.16倍 |
| スパン900→600mmでのたわみ | 0.2倍 | スパンを詰めるほうが効く |
| 板厚18→24mmでのたわみ | 0.42倍 | |
| パーティクルボードのヤング係数 | 2,500N/mm² | |
| タモ集成材のヤング係数 | 9,500N/mm² | パーティクルボードの3.8倍 |
判型の話は美観の問題では終わらず、50代以降は活字寸法が読み返しの負担を左右する場面が増える。ただし活字寸法が読み返しの実行率を決めるという調査は、見当たらない。四六判やワイド版で組み直された同じ本は、文庫より1冊あたり150〜300g重く(前掲レンジの差分)、棚の荷重も増えるが、それでも読み返す本だけを大きい判型に置き換えるほうが、読まない文庫を100冊残すより合理的だ。買い直しの基準は第4回「読み返す本だけ、大きな字で買い直す。」で扱う。
TIPS
文庫の高さは、出版社で4mm違う。
文庫と単行本を混ぜて差すと、上の空間が死ぬ。しかも文庫どうしでも揃わない。A6の105×148mmに対し、新潮文庫と文春文庫は151mm、集英社文庫は152mm。最大4mmの差が、棚板1枚の高さを決めてしまう。新書判は103×182mmで、A6とは34mm違う。残す本を寸法で選ぶというのは、内容を諦めることではなく、同じ棚にもっと入れるための手である。
三つの軸の積集合。
判定軸は三つに絞れる。紙の寿命(酸性紙50〜100年/中性紙100年以上、いずれも環境依存の目安)、再入手可能性(絶版・電子化・図書館デジタル送信)、そして棚の物理(施行令85条の1,800 N/m²と試算の4,610 N/m²、δ=5wL⁴/384EI)である。
この三つを重ねると残す本の条件はひとつに収束し、二度と手に入らず、かつ物理的に残せる本だけが、棚の面積を使う資格を持つことになる。
再入手できる本は手放しても失われないが、紙が終わりかけている本を残すと決めるなら、容器(ISO 16245の趣旨に沿った中性紙の箱)と環境を用意する話になる。どちらも用意できないなら、それは保存ではなく放置だ。置いてある状態だけを見てもこの二つは区別がつかず、棚に並んでいる姿は、どちらも同じに見える。
手放すことは負けではない。棚が重いのは本がいちばん売れていた時期に買っていたからで、重さの原因が市場側にあるなら、減らす判断も同じ市場の話として処理できる。感情を使わずに済む。残る作業は、小口を並べて褐色の濃さを比べ、棚板の支点と支点のあいだを測ることである。
紙の寿命と、棚の耐荷重。
三軸のうち、第1回で確定したのは紙の寿命だけである。酸性紙50〜100年、中性紙100年以上という目安と、ISO 9706(1994年)の永続性要件。ここまでが土台になる。
今日やることは1つでいい。棚から10冊抜き、小口と天の変色の濃い順に並べる。刊行年をメモする。それだけで、自分の棚のどの層に寿命の短い紙が集まっているかが見える。下段か、押入れか、窓際か。場所に偏りが出たら、原因は紙より環境である。
次回は再入手可能性の判定に入る。もう一度買える本は、置かなくていい。