600Hzという数字が、なぜスペック表の隅にあるのか。
DS-251(1970年発売、1台25,000円)の構成は、25cmウーファー+5cmコーントゥイーター+3cmコーンスーパートゥイーターの3ウェイ密閉型で、再生周波数帯域は40Hz〜25,000Hz、クロスオーバーは2,000Hzと10,000Hz、許容入力40W。ここまでは当時のカタログを暗記していた世代なら口が動く。
1台25,000円が当時どのあたりの買い物だったかは、賃金の側から見ると輪郭が出る。1970年の大卒初任給(男性)は39,900円で、左右そろえれば50,000円のDS-251は初任給のおよそ1.25倍、月給一か月ぶんを少し超えたあたりに値札が立っていたことになる。青天井の予算で組まれた機種ではないので、この先に出てくる600Hzや2,000Hzという数字も、どこかを削って取りに行った値だと思って読むほうが実像に近い。
問題は、5cmコーントゥイーター(型番TW-5022CM)の最低共振周波数が600Hzと明記されていることで、これは高域ユニットの「下の端」の数字である。高域をどこまで伸ばしたかではなく、高域ユニットがどこまで下を鳴らせるかの話だ。
5cm口径のコーンで600Hzまでf0を下げるのは、素直な設計ではない。振動系を軽くすれば高域は伸びるがf0は上がるので、f0を下げるにはエッジを柔らかくするか、質量を足すか、後ろの空気バネを弱めるかのいずれかになる。DS-251の方式は仕様表にアコースティックエアーサスペンション方式
と明記されている。振動板後部の空気室に吸音材を詰め、密閉された空気の反発を吸音材の抵抗に置き換える方式である。
仕様表では、この数字はトゥイーターの行の末尾に小さく載っている。
帯域でも能率でもないので、見出しになる場所を持っていない。
クロス2kHzを、25cmウーファーの側から読む。
25cm口径のコーンは、周波数が上がると全面が一体で動かなくなり、中心部だけが先に動いて外周が遅れる。これが分割振動で、始まった帯域では周波数特性が波打ち、指向性が急に狭くなり、位相が暴れる。
つまり25cmウーファーは、どこかで手を引かなければならない。引く位置を高く取ればウーファーの荒れた領域まで使うことになり、低く取ればその分を上のユニットが引き受けなければならないが、DS-251は2,000Hzで引いた。
2kHzで引き継げるツイーターの条件は単純で、f0が十分に下にあることに尽きる。600Hzに対して2,000Hzは3.33倍であり、共振点から十分に離してクロスさせれば、共振に伴う歪みと位相回転の影響はクロス帯域から外れていく。「3倍以上」という目安が語られることもあるが、出どころははっきりしない。もしf0が1,200Hzだったら倍率は1.67倍で、クロスは共振の裾に乗ってしまう。
DS-251の設計は「帯域を伸ばすための3ウェイ」ではない。25cmウーファーの素直な領域だけを使い、その上をf0の低いコーントゥイーターで受け、10kHz以上を3cm(型番TW-3301AMとする資料がある)に渡す。3つのユニットの、つながりを買う設計である。
共振点からどれだけ離すか、という一点で決まっている。
3ウェイという言葉は、ふつう「3つに分けて広く出す」と読まれる。
この機種では「3つで渡す」ほうに寄っている。
値段の近さは、設計の近さを意味しない。
スーパートゥイーターの口径は3cm、コーントゥイーターは5cm。25cmウーファーの上に、この2つが載っている。
密閉箱と吸音材300g——Qを箱の中で決める。
DS-251は密閉型で、バスレフのようにポートで低域を稼ぐ構造を持たない。外形寸法は315×525×215mm(W×H×D)で、25cmウーファーを積む機体としては奥行きが浅い。
密閉型の低域は、コーンの背後にある空気バネと振動系の質量で決まる共振と、その共振の鋭さ(Q)で性格が変わる。Qが高ければ低域は膨らんで量感が出るが締まりを失い、低ければ引き締まるが薄くなる。ここを調整する手段が、箱の中の吸音材である。
DS-251の吸音材量は300g。板厚15mmとして内容積を約26Lと置けば、11.5g/Lという密度になる。300gという絶対量は、25cm用の箱としては軽い詰め方ではない。吸音材は音を吸うためだけに入っているのではなく、空気バネの実効的な硬さと減衰を決める部品として入っている。
奥行きが浅いことと吸音材が300g入っていることは、別々の話ではない。密閉箱の空気バネは容積が小さいほど硬く、硬い空気バネは振動系の共振周波数とQをそろって押し上げるので、箱を詰めるほど低域は上ずって膨らみやすくなる。ここに吸音材を入れると、空気が圧縮と膨張を繰り返すときの熱が繊維に逃げ、断熱寄りだった振る舞いが等温寄りに移って、同じ容積でも空気バネがいくらか柔らかく働く。板で箱を大きくする代わりに、中身で容積を稼ぐ操作にあたるわけで、300gという量はその操作をどこまでやったかの目盛りでもある。ただし吸音材は空気バネにだけ効くのではなく、背圧として戻ってくる中域も同時に吸うため、入れる量は低域の伸びと中域の抜けのあいだで決まる。この浅い箱で下限を40Hzまで書くとなると、二つを同時に握ることになる。
そして下限は40Hz。密閉25cm、奥行き215mmでこの数字を出し、上限は25,000Hzまで書いている。1970年のカタログとしては強気の両端である。
オールアルニコという選択が意味していたこと。
DS-251は3ユニットすべてがアルニコマグネットで、ウーファーはダイヤトーン PW-2517、5cmコーンがダイヤトーン TW-5022CM、3cmがTW-3301AMという構成である。オールアルニコ。この語感だけで当時の店頭は成立した。
1970年代前半は、各社でフェライト系の採用が広がっていく。そのなかで、25,000円のDS-251は3ユニットともアルニコで揃えられていた。上位機のダイヤトーン DS-26B(1台34,000円、1974年頃に38,000円へ改定)と同じ棚に並べたとき、磁石の側では見劣りしない構成になっている。
フェライトへの置き換えは磁気回路の設計をやり直す作業であるため、機種ごとに進行のタイミングが違い、カタログの型番順がそのまま設計の新旧の順になるとは限らない。
源流を辿ると、ダイヤトーンには1958年発売の2S-305がある。NHK技術研究所との共同開発と紹介されることが多いものの、経緯そのものを当事者が書き残したものは見当たらないが、ユニット間のつながりと帯域内の素直さを最優先する設計語彙の出発点だったことは、仕様と構成から読み取れる。DS-251のクロス2kHzという選択は、その語彙が12年後、25,000円のブックシェルフまで降りてきた形と見ることができる。
中古で見るときは、この吸音材が経年で落ちていないかを先に確かめる。
3年後のmkII——数字は動かず、重さだけが動いた。
1973年に登場したDS-251mkIIは1台28,500円で、DS-251から3,500円の上昇にとどまった。
| ウーファー口径 | 25cm | PW-2517 |
|---|---|---|
| スコーカー口径 | 5cm | |
| ツイーター口径 | 3cm | カタログ値。2.5cmとする記述もある |
| ユニット数 | 3ウェイ | 密閉。バスレフではない |
| 再生周波数帯域 下限 | 40Hz | |
| 再生周波数帯域 上限 | 25,000Hz | |
| クロスオーバー(低→中) | 2,000Hz | |
| クロスオーバー(中→高) | 10,000Hz | |
| ツイーター最低共振周波数 f0 | 600Hz | カタログの隅に載る値 |
| f0とクロスの倍率 | 3.33倍 | 600Hzに対する2kHz。算出値 |
| 定格インピーダンス | 8Ω | |
| 許容入力 | 40W | |
| 出力音圧レベル | 91dB/W | |
| レベルコントロール | 3段 | |
| 吸音材量 | 300g | |
| 外形寸法 幅 | 315mm | |
| 外形寸法 高さ | 525mm | |
| 外形寸法 奥行 | 215mm | |
| 重量 | 10kg | 1台 |
| 発売年 | 1970年 | |
| 価格(1台) | 25,000円 | |
| 価格(ペア) | 50,000円 | 1台価格の2倍。算出値 |
| 1970年の大卒初任給(男性) | 39,900円 | 賃金構造基本統計調査ベース |
| ペア価格/大卒初任給 | 1.25倍 | 算出値 |
| 生産打ち切り年 | 1976年 | audio-heritage 記載 |
| 販売終了年 | 1977年 | Wikipedia 記載。打ち切り年と1年ずれる |
ところがカタログ値を並べても、ほとんど何も動いていない。再生周波数帯域は40Hz〜25,000HzでDS-251と同一であり、クロスオーバー周波数と許容入力はmkIIの公表値が見当たらないが、出力音圧レベルは91dB/W(新JIS)と記載される。
実体のほうは変わっている。外形寸法は315×525×240mmで、幅と高さは同じまま、奥行きだけ215mmから240mmへ25mm増えた。重量も10kgから12kgへ2kg増え、ウーファーフレームは4mm厚のアルミダイカスト、スーパートゥイーターの振動板は板厚70μmの硬質アルミで、有効振動半径12mmと明記されている。
増えた25mmの奥行きは、そのまま内容積として効いて背後の空気バネを柔らかくする側に働くが、3年ぶんの手当ては箱だけでなくユニットの側にも入っている。4mm厚のアルミダイカストフレームは、鉄板を打ち抜いて作るフレームに比べて振動板の反作用で撓みにくく、磁気回路とコーンの位置関係を保つ土台として効くので、重い振動系を吊る側ほど差が出る。スーパートゥイーターの板厚70μmという硬質アルミも狙いは同じ方向で、紙より硬い材料を薄く使えば振動板が一体のまま動いていられる上限は高いほうへ寄るが、そのかわり一体でなくなったときのピークは紙のようには鈍らない。有効振動半径12mm——直径にして24mm——という数字は、その硬い振動板を面積の側から小さく抑えた値として読める。3cmという呼び名から受ける印象より、実際に空気を押している面は小さい。
奥行き25mm、重量2kg、フレーム4mm厚。3年分の改良が、仕様表には一行も現れない。
では、カタログに現れない改良を当時の買い手はどうやって知ったのかというと、箱を持ったときの重さと、指で叩いたときの返りである。それは今も同じで、中古を前にしたときに効く判断材料になる。
1974年、カタログが一斉に書き換わる。
オイルショックが価格表を襲い、DS-251mkIIは28,500円から32,000円へ12.3%の上昇。同時期、DS-26Bは34,000円から38,000円へ11.8%、上位機のダイヤトーン DS-301は62,000円から75,000円へ21%と、上位機のほうが上げ幅が大きい。
木材と磁性材料の使用量が多い機種ほど原価上昇の影響を受けた、という読み方はできるが、上げ幅は生産数や価格帯ごとの丸めでも動くので、材料構成の差だけで説明できるとは言えない。
競合も同じ波を受けた。Victor SX-3は1973年の発売時が1台27,900円、同年11月頃に29,800円。DS-251の25,000円との定価差は、SX-3の発売時価格で2,900円しかない。
値上げの幅は、中身の重さと素直に対応していない。
価格が動いた一方で、設計思想そのものが動いた例もある。1976年のダイヤトーン DS-25Bはバスレフレックス型で、再生帯域の上限は20,000Hz、インピーダンスは6Ω。DS-251系の密閉・上限25kHzから、二つとも変わっている。
密閉+25kHzは、ダイヤトーンの唯一解ではなかった。同じメーカーの同じカタログの中に思想の分岐が並んでおり、上限は25kHzから20kHzへ下がっている。上限を下げた代わりに、どこへ重心を移したのか。同じカタログの中に、2つの答えが並んでいる。
TIPS
同じ「25kHzまで」でも、比べられないことがある。
再生周波数帯域は、何dB落ちまでを範囲に入れるかで数字が変わる。DS-251の出力音圧レベルは「91dB/W(新JIS)」と「97dB/VA」の2つが併記されているが、これは基準が違うだけで音が2種類あるわけではない。13年前の2S-305から続く書き方の名残でもある。条件が書いていないカタログの数字どうしは、そもそも比べられない。古いカタログほど、この但し書きが省かれている。中古を選ぶときは、帯域の広さより「何dB落ちか」を先に探すといい。
いま鳴らすとき、最初に疑う場所。
半世紀が経った個体を前にしたとき、順序を間違えると余計な手間がかかる。
スーパートゥイーターが鳴らないという症状は定番だが、第一容疑者はユニットではなく、レベルコントロールが3段切替+ON/OFFを兼ねるステップ式であるため、その接点である。接点を通す構造上、ここが酸化すれば高域だけが消えるので、ユニットを外す前にこの接点を潰す。
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高域が出ない個体を、接点から疑う。
ユニットを外す前に済ませておく作業がある。3段切替の摺動面を清掃するための一本。
スーパートゥイーター無音の第一容疑者はステップ式レベルコントロールの接点。ユニット交換の前にここを潰す順序が正しい。
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エッジも同じで、1970年代の密閉型はダンプ剤の硬化がf0とQを直接変えるため、硬化していれば低域の輪郭が最初に崩れる。ただし年式で一律に判断してはいけない。1970年前後のロットでダンプ剤が硬化していない実例が整備報告として残っており、ロット依存であるから、現物を指で押して確かめるほかない。
地味だが効く話がもう一点あって、当時のスクリュー式ターミナルは現代の太径ケーブルを素直に受けられないため、端末処理の寸法から先に確認しておくのが順序である。
手を入れるなら、工具は先に揃えておくほうが早い。
生産の終わりは1976年から1977年にかけて。中古を年式で絞るなら、この2年は両方見ておく。累計は「のべ60万本」という数字が流通しているが、本と台とペアで数え方が違うので、台数の比較に使うときは単位を揃えてからにしたい。
2026年時点の相場は、ヤフオク落札平均でDS-251が2,911円、Victor SX-3が12,377円と約4.2倍の差があるにもかかわらず、当時の定価差は2,900円だった。この差を音質差で説明するのは筋が悪く、供給量の多さと、現存個体の状態分布——エッジ、接点、ネット、箱の突板——で説明したほうが実際に近い。安いのは、たくさん残っているからだろう。
数が多いということは、状態の悪い個体も多いということでもある。
DS-251の、これから。
DS-251の設計の核は、40Hz〜25kHzという両端の数字ではない。5cmコーントゥイーターのf0を600Hzまで下げ、クロスを2kHzに置けるようにしたことだ。600Hzに対して2kHzは3.33倍。この余裕があるから、25cmウーファーを分割振動の始まる手前で降ろせた。帯域を伸ばす3ウェイではなく、つながりを買う3ウェイである。
1973年のmkIIは、40Hz〜25kHzという公表帯域を動かさないまま、奥行きを25mm深くし、2kg重くし、ウーファーフレームを4mm厚アルミダイカストにした。仕様表に現れない改良が3年分積まれている。1974年の一斉値上げでは251mkIIが12.3%、DS-301が21%。1976年のDS-25Bはバスレフ・上限20kHz・6Ωへ転回した。
持ち帰るべき行動は一つ。DS-251かmkIIを手にするなら、鳴らす前にレベルコントロールの接点を確認する。高域が出ないという症状の多くは、ユニットではなくそこにある。